鬼の生き様
「避けては通れぬ道だったんだ」
「もう、殿内さんの件については忘れよう」
勇は寂しげに言う。
「俺はあんたを壬生浪士組の総帥(そうすい)にすると決めた。
そして京で大名となって江戸に帰るんだ」
勇は総帥、大名という言葉に照れ臭そうに笑った。
「しかし江戸でも貧乏道場の総帥、京でも貧乏浪士の総帥では話にならねえ」
「言うな。俺は将軍様の為に働けるなら、貧乏でも物乞いでもかまやしねえさ」
「あんたが良くても俺達がそれじゃ駄目だ。
俺達、試衛館の人間は金がねえ。
それに比べて、芹沢達は毎晩酒を呑み歩き、今じゃ馴染みの妓(おんな)だって居るって話さ」
どこからそんな金が湧いてくるかは、誰も知らなかったが、恐らく強請りのような事をしているのだろう。
「佐伯を見てみろ。
あいつだって元を正せば殿内の紹介で入ったが、芹沢の金と力と身分を見てか、今じゃ芹沢にベッタリだ」
歳三の言う通り、壬生浪士組は今では水戸一派の方が大きくなっているようにも感じる。
「あんたが総帥になる為には、要り用なのは仲間と金だ」
「また彦五郎さんに無心するのか?」
「そんな小金じゃ、すぐに底をつくだろう」
京に来てからというもの、困ったら歳三の義兄である佐藤彦五郎に金の無心をし、その場をしのいでいた。
しかし彦五郎に頼まなければ、金の出所は勇は勿論だが歳三も無い。
「芹沢達を利用するんだよ」
「どうするんだ」
「まずは隊士を集める。
それも近藤勇について来てくれる俺達寄りの隊士を募るんだ」
歳三は既に京の名だたる道場に隊士募集の手紙を送りつけていた。
「相変わらず手が早いな」
「そこで相談なんだが……」
歳三の話を聞き、勇の顔はパァっと顔に喜色を浮かべて明るくなった。良い相談である。
二人は早速、芹沢の元へと向かった。