鬼の生き様
八木邸につくと、隊士達が賑わっている。
歳三が送った隊士募集の手紙を読んで続々と浪人が集まっていた。
応募資格は尽忠報国の志がある者、剣術に長けている者のみで、身分は問わなかった。
浪士組同様、百姓や町民も参加する始末だが、歳三は武士よりも武士らしく生きる剣客集団を作りたかった。
名実共に武士達に後ろ指を刺されない信念を持った心の武士集団を。
その中でひときわ目立つ男がいる。
年の頃なら十九歳、背はそんなに高くはないが、雪のように白い肌の少年はまるで女と見間違えるほど見目麗しい美少年である。
「なかなかの色男じゃねえか。
それで腕の方は?」
歳三は山南にそう聞くと、
「佐伯さんと手合わせさせたのですが、ちとばかり彼の方が上です」
佐伯又三郎、この男の剣術は自己流ではあり、型にとらわれない破天荒な剣術だが腕前は確かであった。
その佐伯を倒したとなれば相当な使い手だ。
それも聞く限り柔術の達人だという。
名前は、佐々木愛次郎(ささきあいじろう)という。
衆道(しゅどう)でも流行らなければいいがな、と歳三は笑った。
一緒に佐々木蔵之介(ささきくらのすけ)という男も入隊した為、愛次郎の事を皆、「愛次郎」と呼ぶ事となった。
他にも播磨国小野藩を脱藩し、大坂にて柔術の道場を開いていた坊主頭の男、松原忠司(まつばらちゅうじ)。
流派は関口流柔術。
大薙刀を携え、異様な風貌をしており、一同『今弁慶』というあだ名がつけられた。
同じく播磨国高砂の生まれで、実家は裕福な米問屋を営んでいた男も入った。
大坂の商家に嫁いでいた妹が、京にて浪士を募集していると聞き、はるばる上京した河合耆三郎(かわいきさぶろう)という男。
剣術には長けていないが、商家の出身である河合は経理の才覚があり、勘定方を任された。
松原と河合は、同じ播磨国の生まれの同期ということで互いに意気投合した。
歳三、勇、山南、芹沢、新見は八木邸の一室にいた。
平野屋から借用した百両を取り出し、羽織について語り合った。
「どうせなら目立つほうがいいだろう」
芹沢はそう言った。普段着ている着物は黒羽二重だが意外にも派手好きなのである。
「派手といえば、実は私は忠臣蔵が大好きなのです」
そう言い目を輝かすのは勇。
歳三はげっとした表情を浮かべた。
「忠臣蔵というとあのダンダラですか?」
山南は恐る恐る聞くと、勇はうんと子供のように頷いた。
(冗談じゃねえ)
歳三はそう思ったが、芹沢もいいなと言う。
「壬生は壬生菜や藍が出来るが、その藍で染めれば綺麗な浅葱色(あさぎいろ)になるんじゃねえか?」
芹沢は乗り気でそう言う。