鬼の生き様
不幸というのは連鎖するものかもしれない。
阿比留鋭三郎の死後、八木邸にはどんよりとした空気が流れていた。
「おじちゃん、おおきに」
八木源之丞の娘、セイはそう確かに言った。
みるみる顔色が悪くなっているセイを見て芹沢は慌てて自室へと戻った。
手には金平糖がしっかりと握られ、再びセイの家へと向かった。
「喰えば元気になるだろ、いいから喰え!」
そう声を荒げる芹沢だが、その声はすでに涙声に変わり、金平糖はぽろりぽろりと畳の上へと溢れていく。
セイはにっこりと笑っている。
金平糖はまるで星のように輝いていたが、星が消えるように命も消えた。
セイが死んだ。
妹と瓜二つで、妹のように可愛がってきた幼きセイが死んだのである。
「…うっ……、逝くにはまだ早いぞ!」
芹沢はセイの口に金平糖を入れ込んだ。
これを食う時、セイは必ず笑顔になっていたがセイは、まるで眠っているかのように綺麗な顔をして、笑顔になることはなかった。
「セイッ…セイ!!」
声を大にして泣いたのは初めてだったかもしれない。
__おじちゃん、おおきに。
セイが死の間際に口に出した言葉が脳裏から離れない。
京に来てからひと月あまり、芹沢はセイをよく可愛がり、セイは芹沢に懐いていた。
初めて訪れたこの地で、芹沢の不安をかき消してくれたのは水戸の仲間達と、そしてこの一人の小さな少女であった。
「近藤さん…」
芹沢が勇を訪れた時は、目は泣き腫らして腫れており顔を陰鬱に沈み込ませていた。
事情は分かっていた。
勇は静かに冥福を祈るかのように、芹沢に対して頭を下げた。
思わず芹沢のその顔を見て、まぶたの上が熱をこもったのを感じた。