鬼の生き様
そこへ歳三の切っ先が、突き出された。
危うく罠に突っ込みそうになった平助は、急いで止まりその切っ先を弾いた。
「フゥ、危なかったけど、そんな子供騙しに騙されませんよ」
「そこまで甘いとは思っちゃいねえさ」
歳三はそう言って、態勢を崩した平助に襲いかかった。
しかし、平助も一流の剣客であることに変わりはない。
左から右へと叩きつける嵐のような激しい斬撃を、平助は持ち前の身軽さで竹刀で次々とかわしていく。
初夏の日差しが二人の額にじんわりと汗をにじませた。
(トシの奴、あれは剣術じゃねえぞ)
口には出さないが勇の動揺はよく伝わる。
天を仰ぎしどろもどろの勇を横目に、芹沢が肩を震わせて嗤っていた。
「試合というより喧嘩だな」
芹沢の言う通りかもしれないが、歳三の剣術はもはや天然理心流の枠を飛び越え、自己流と天然理心流が入り混じった謂わば喧嘩剣術なのである。
しかし容保は、次々と繰り出される撃剣をすべて逸してゆく平助のしなやかな剣さばきに、夢中で目を凝らしていた。
「見事な試合じゃ」
一方の歳三はといえば、一見、あたり構わず闇雲に刀を振り回すばかりだ。
「ほらほら、休んでる暇ァねえぞ、魁先生」
平助は素早い足運びでその動きについていきながらも、攻撃に転じる隙をつかめず、焦りを見せ始めた。
二人の竹刀が激しくぶつかりあう音が、なおも御影堂の前庭に響きわたる。
その、左右の動きに、平助の目がすっかり慣らされた頃合いだった。
歳三の撃剣は収まりスッと身体を引くと、平助の胴めがけて切っ先を突き出した。
平助は両足を宙に投げ出した格好で、見事なほどドスンと地面に尻を着いた。
「一本!」
「…ほう」
容保が思わず嘆声をあげる。
一瞬の間をおき、
会津藩士たちが万雷の喝采を浴びせた。
「お目汚し、失礼致しました」
歳三は優雅にお辞儀をしてみせる。