鬼の生き様
拍手が鳴りやまぬ中、新見だけがつまらない顔で宙をにらみ、愚痴を漏らした。
「喧嘩ではないのだぞ…。上覧試合で型を見せねえでどうする」
その独り言が容保の耳にも届いたらしい。
「しかし新見、あの男の機転は兵法にも通じる。大したものではないか」
「そんな大層なものでは…いや、お褒にあずかり恐縮にございまする」
上機嫌の容保を見て勇はホッと胸を撫で下ろした。
続いて柔術の遣い手である壬生浪士組きっての美男の新入隊士、佐々木愛次郎と、その同期の佐々木蔵之介の名が呼ばれた。
今度は原田左之助が不服そうな顔を浮かべている。
「愛次郎が出るのに、俺は出れねえの?」
「柔術の試合だからでしょう」
「そうか柔術か。
愛次郎の野郎、あんな女子みたいな身体で柔術の腕前はなかなかのもんだからなあ」
源三郎の説明で左之助は納得をしたように頷いた。
お調子者の左之助も会津藩主である殿の前で試合に出たいのだ。
愛次郎の柔術の腕前は入隊試験の時に艶やかなものを見せたが、御前試合でも年の割には落ち着きを払った見事な試合で蔵之介を倒した。
「いやぁ、緊張しました」
端正な面に浮かぶ玉のような汗を手の甲で拭いながら、佐々木愛次郎が引き上げてきた。
「ご苦労さん、そうは見えなかったよ」
平間重助が、例の人のいい笑顔で愛次郎を出迎える。
「けっ」
左之助は滑稽なほど、不満をあらわにした。
愛次郎は芹沢が執拗に構い、嫌々ながらも試衛館一派というよりは水戸一派と連んでいることが多かった。
容保は、新しい戦力となった壬生浪士組が存外に頼もしいことを知り、すっかり満足した様子で、やや口も滑めらかになってきた。
「芹沢、近藤、そして新見。そちらの働きには大いに期待するぞ」
「は!」
三人は口をそろえた。
容保はなおも続ける。