鬼の生き様
天覧試合もいよいよ佳境に入った。
会津藩公用方の秋月悌次郎(あきづきていじろう)も身を乗り出し、
「殿、ご覧あそばされませ。次に控える両名は、隊内屈指の使い手にございます」
と解説を加えた。
「第三試合。
神道無念流免許、永倉新八。
一刀流、斎藤一。これへ」
永倉と斎藤、そして総司の三人は巷でもなかなかの使い手だと、有名になっていた。
この試合の組合せに試衛館一派は勿論、新入隊士達も目を輝かせたが、左之助は退屈そうに言った。
「俺の出番はいつになったら周ってくんだ」
源三郎は、気の立っている左之助を警戒しながら組合せの書いた紙をちらりと見て、用心深く言葉を選んだ。
「左之助。
いいかい、落ち着いて聞いてくれよ?
つまりその、非常に言いにくいんだが、残念なことに、槍は、本日の予定に入ってないようなんだ」
すでに立ち上がっていた永倉が、源三郎の気遣いを踏みにじるように腹を抱えて笑いだした。
「お前の分もしっかり戦ってくるから、左之助!
そこでおとなしく座って見てろ」
「なんだよ新八、こんの野郎、殿様の前でこっぴどく負けて恥をかきやがれ!」
原田は髪をかきむしって悪態をついた。
永倉は涼しい顔でそれを受け流すと、斎藤の肩をポンと叩いた。
「斎藤よぉ、俺たちも死なない程度に頑張るとしようぜ」
それまで、まるで眠っているかのごとく微動だにしかなかった斎藤が、薄く目を開き、無言で竹刀をつかんだ。
二人の腕前はほとんど互角であった。
結果は引き分けで終わったが、控えている総司はその試合を見て腕が鳴ると言っていた。
棒術の達人で、愛次郎らと共に壬生浪士組に入隊した川島勝司(かわしま かつじ)が棒術の型披露をし、その後は水戸一派同士のやり取りで、平山五郎と佐伯又三郎。
そして総司と山南の試合で天覧試合は幕を下ろした。
「良きものを見せてもらった。励め」
容保の言葉に壬生浪士組一同は震え上がった。