鬼の生き様
天覧試合の折に容保から近々大坂に将軍、徳川家茂が下るという話を聞き、壬生浪士組に将軍警固の命を受けた。
壬生浪士組の怒涛の勢いを止めることは出来ない。
「まだ兵の数が足りん」
歳三はそう言い、壬生浪士組一同を引き連れて、どうせ大坂に行くならば将軍警固のついでに隊士募集も行おう、と勇に言った。
無論、芹沢は将軍警固の為に下ると思っており隊士徴募の旨というのは伝えなかった。
「近藤さん、隊士募集の遊説は、俺たち試衛館の者でやる」
「分かった」
勇も歳三の真意は流石に分かっていた。
芹沢一派にやらせれば、その手を伝ってやってくる浪士達は皆、芹沢派の人間になる。
金回りのいい筆頭局長と局長のいる水戸一派。
権力が上の者に下の者はへつらう。
浅葱色の羽織に身を包み大坂へ向かう名もなき壬生浪士組達。
「野暮な色の羽織きて、あん人ら何者なんどすか?」
「前に江戸から浪士組っていうのがぎょうさん来はったでしょ、そのお侍はん達だよ」
「あぁ、東男の野暮侍達か」
「やめんかい、聞かれたら殺されるで」
「いやぁ、怖い。
壬生浪ではなくて壬生狼やないか」
派手な羽織を着て歩く壬生浪士組をヒソヒソと町民達は蔑んだ。
無理はない、京に来てからおよそ二ヶ月。
まだ壬生浪士組が成し遂げた事は何一つないのだから。
大坂につくと壬生浪士組一同は大坂八軒屋の船宿、京屋忠兵衛(きょうや ちゅうべえ)の宿に停泊した。
さっそく芹沢には内密で、総司、平助、左之助、斎藤、源三郎らを指揮して大坂の道場をしらみつぶしに歩かせて応募を勧誘させた。
即座に入隊を応諾する者もいるが、名も知れない壬生浪士組という武装集団に怪訝な表情を浮かべる小うるさい道場主がいる道場には実際に立ち合わせた。
総司達は一度も負けなかった。
こうして壬生浪士組に入隊した者達は、およそ百名近い。