鬼の生き様
橋はなく、向こう岸の石田村には渡し舟で渡るようになっているのだが、こんな夜中に舟は出ない。
歳三は着物を脱いで裸になった。
ここで夜を明かし、渡し舟が出るまで待つか、思い切って泳いで渡るしか方法はないのだ。
歳三は後者を選んだ。
脱いだ着物をくるくると纏めて、帯で頭に縛り付けると多摩川へと入っていく。
冷たい川水が疲れ切った身体に、何故か心地良さを感じさせた。
腰の所まで水が浸かると、歳三は泳ぎ始めた。
幸いにも流れはそんなにはやくはなかったが、それでも流れに押され、歳三は少し下流の岸に泳ぎ着いたり
川原にあがり、水を払い落とし、手早く着物を着ると一目散に走り出した。
歳三が家に辿りついたときは、既に真夜中になっていた。
寝静まった母屋の扉を叩くと、暫くして喜六が出てきた。