鬼の生き様

 部屋へ逃げ帰った力士から、事態を知らされた仲間たちは激昂した。

「ええい許せん!」

力士達は壬生浪士組を懲らしめてやると、親方の小野川秀五郎にもちかけた。

「待ちんさい。ほんまにお前らに非はないんか?」

秀五郎はそう言うと、他の力士達はだんまりとした。

「熊次郎が斬られたんです、仇を討たせてください!」

「ええかお前ら、私怨の諍いは繰り返されるもんや。
わてはもうお前らを失うような事はしたくないんや、ここは堪えて奉行所で事の顛末を報告して堪えてやってくれ」

秀五郎は痛惜に耐えないような声でそう言った。
力士達は秀五郎に言われた通りに、大阪西町奉行所へと赴くと、そこには内山彦次郎(うちやまひこじろう)という与力が対応した。

 内山は、天保八年(1837年)の大塩平八郎の乱を鎮めた男として知られている男であり、久須美祐明(くすみすけあきら)は、「内山彦次郎は昼夜の別なく用談を試み、その性質は貞実堅固にして、しかも才気あり、大坂出生の者でありながら、身元宜しき町人共と懇意に仕らず、役所では御用向申談の外一切彼等を私邸に入れなかった」と称賛している。
 
天保十四年(1843年)、嘉永六年(1853年)、万延元年(1860年)の御用金令にも大きな功績を残している名与力だ。
 
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