鬼の生き様
刻限でいうと草木も眠る丑三つ時程であろう。
陰鬱な静けさが一枚の黒い大きな布のように降りていた。
喜六の手には木刀が握られ警戒している姿が見られた。
「誰だ」
喜六は声をひそめながら、語気は鋭く、崇にかかった口調で言い放った。
「俺だよ」
その声にハッとし、喜六はすぐに心張り棒を解いた。
「歳三、おめえこんな時分に…」
驚くのも無理はない。
半年もの間、便りの一つも寄こさずに、丁稚奉公に従事していたと喜六は信じていた。
その歳三がこんな真夜中に一人で帰ってきてしまったのだ。
「俺ァ、あんな店には絶対に戻らねえからな!」
さすがの歳三も気丈にも涙は見せずにそう宣言をしたが、全身は小刻みに震えていた。
(九里もの距離を一人で帰ってくるなんて、此奴ァたいした野郎だ)
喜六は根を上げて帰ってきたならば、歳三を叱りつけてやろうと肚に決めていたが、この時は叱ろうなんて感情はすでに無くなっていた。
ただただ、歳三の意地というものに感服するばかりであった。