鬼の生き様

 二人が恋に落ち、恋仲になるまでには時間はかからなかった。
あぐりは壬生村に出向き、愛次郎を訪ねては自分の家の八百屋で売っている京菜やらを愛次郎に届けるのだ。

父、半次郎が仕向けた事で佐々木愛次郎に届けて欲しいと配達をあぐりにさせていく。

お互いにはじめは挨拶程度だったが、顔を合わせれば合わせるほど、氷が溶けていくように二人の距離も近付いていった。

「あの女、えれぇ美人じゃねえか」

左之助はあぐりを見るとそう言った。
次第に壬生浪士組でも、毎日のように来る“野菜の君”としてあぐりの評判は上々であった。
男所帯の壬生浪士組にとって、あぐりというのは目の癒しでもあったし、愛次郎を妬む者までいた。

「愛次郎の野郎、可愛い顔してやる事はやってるんだな」

永倉は二人の仲を優しく見守るようにそう言うと、総司は訝しげに愛次郎とあぐりを見ている。

「大丈夫かなァ」

「なんだよ総司、若いんだからいいじゃねえの」

「私達の仕事は命懸けですよ。
意中の人が出来てしまえば、きっと人って命が惜しくなる」

総司の言う事に、なるほどと二人は頷いた。
歳三も腕を組みながら、愛次郎とあぐりの様子を見ながら「総司の言う通りだ」と言った。

ましてやあぐり程の美人を恋仲になってしまえば愛次郎に対して嫉みをもつ者もいるはずだ。
歳三は男女のもつれの面倒くささを危惧していたのである。

< 222 / 287 >

この作品をシェア

pagetop