鬼の生き様
「ねぇ、芹沢はん。
あぐりちゃん、今日も来とるで」
お梅はあぐりを見守るように芹沢に言った。
芹沢もその様子を見ながら微笑んでいる。
「本当だ、ありゃあゾッコンじゃねえか。
お梅が居なければ、ワシが貰いたいぐらいじゃ」
冗談で芹沢は言うとお梅は頬を膨らまし
「うちを捨てたらあかんで」
と可愛らしく言うのだが、芹沢は冗談だと豪快に笑いながらお梅を抱き寄せた。
こうしている時が、芹沢にとって心の癒しであり、至福のひと時であった。
愛次郎もまた芹沢に懐いていて、あぐりも壬生浪士組内には女がいない為か、お梅を姉さん姉さんと慕っていた。
あぐりを連れてくると、必ず芹沢の部屋に通して挨拶をさせるのだ。
「若者同士、仲良くやれや」
芹沢はそう言い煙管をふかす。
「はい!芹沢先生も煙管ばかり吸っとるとお体に触りますよ」
と愛次郎は物怖じせずに芹沢にそう言う。
そんな愛次郎を芹沢が気に入らないはずがなかった。
八木源之丞の娘、セイの死による芹沢の心にぽっかりと空いてしまった喪失感というのはお梅によって、ゆっくりと埋めさせられていっているのだ。
ある夜の事である。
蒸し暑くて愛次郎は寝つきが悪く涼みに廊下へと出た。
「愛次郎、愛次郎…」
声を潜めて愛次郎を呼ぶ声は、犬柘植の隙間に身を隠していた。
聞き覚えのある声である。
「佐伯さんじゃないですか」
声を潜めて佐伯又三郎の姿を確認する。
今となっては、愛次郎は近藤勇か芹沢鴨、新見錦と三人局長としてなりたっている壬生浪士組では、芹沢寄りの人間であったが、新見や野口ら水戸の同胞の契りというのは強く、居場所が見出せなかった時に、同じく芹沢寄りの京坂の浪人、佐伯又三郎が愛次郎をよく可愛がっていた。