鬼の生き様
「おかしな話だなァ」
芹沢は横鬢をかきながら言った。
「平間、とっておきなさい」
そう言い、新見錦は平間に足りない分の金子を差し出して隊費を補填した。
新見はたしかに芹沢と共に多くの商家から押し借りをしていたが、最近の芹沢はお梅と出逢ってから変わって大人しくなっていた。
「…おかしな話だ」
芹沢はまたポツリと呟いた。
新見が一人でそんな大金を持ち合わせているのは有り得ない話である。
会津藩からの給金は月に三両だが、新見は金遣いが荒い男である。
「そういえば佐伯、最近見かけませんね」
平山五郎はそう嘆いた。
愛次郎を殺害した真相を知っているのは、芹沢と居合わせてしまった歳三しか知らない。
「もしかして佐伯さんが手を出したんじゃ…」
野口健司はため息をつきながら金庫を見てそう言うが芹沢は「そんなわけあるまい」と佐伯を擁護した。
可愛さ余って憎さ百倍ではあるが、芹沢にとって佐伯はどこか憎めない素質があった。
それにしても、許しているにもかかわらず寄り付いてこない。
たまに壬生寺で剣術の稽古をしているのを見かけるが、芹沢とは目も合わせようともしないのだ。
避けられる事は慣れているが、当然ながら気分は良くない。
「さて我等も行くか」
芹沢は羽織を着込むと立ち上がった。
「行くってどこへ?」
「相撲でも見に行って気晴らしに行くんだ」
祇園北林の相撲興行に行くと芹沢は言う。
正直面倒臭かったが、芹沢が行くと言うならば、行かざるを得ない。
芹沢、新見、平山、平間、野口の五人は羽織を背負い込み、祇園北林へと向かった。