鬼の生き様


 近藤勇を斬る前には、軍師であり懐刀である土方歳三を始末しなければ先には進まない。
新見は芹沢のもとを離れて、一件の豪商を訪れた。

また金の無心をしに行くのだろう。

「御用改めである。会津藩御預り“精忠浪士組”だ」

 新見は殿内義雄がつけた精忠浪士組の名前を気に入っていた。
芹沢がもとより“精忠”という言葉が好きであり、ときどき誠忠浪士組だと名乗ることもあった。
壬生浪士組といったり精忠浪士組といったりするのだが、精忠浪士組というと前までは京の人々には浸透しておらず、はてなという顔をしていたのたが、今は違う。

「拙者は会津藩御預り、精忠浪士組の田中伊織(たなかいおり)という者だ!
貴様等が尊攘の過激な連中に金銭を渡している事は分かっている」

新見錦は自分の事を田中伊織だと名乗った。
豪商の主人は『精忠浪士組の田中伊織』と、その名前を聞いてドキリとした。
商家に押し入っては無理難題を押し付けては、金が用意されるまで、暴れ狂うという悪評たる人物である噂は豪商たちの間では有名である。

「貴様らのしている事は我等、徳川幕府に対する冒涜である」

主人は慌てて金庫を開けて、金を用意しようとすると、新見こと田中伊織はそれを見てニヤリと不敵に笑った。
新見の懐事情は芹沢とはまた別に、こうして蓄えられていたのであった。

 金子を手にして戻るは、隊士も増えてきて新たに借りた南部邸。
新見は御倉井勢武や荒木田左馬之亮ら長州の間者だと噂されている四人を連れ立って「局長命令だ。飲みに行くぞ」と言い、連れ立った。

 御倉井勢武らより先に入隊した色白で星のように目のパッチリとした色白で下ぶくれの弱冠十六歳の平隊士、楠小十郎(くすのき こじゅうろう)は御倉井勢武たちとやけに仲が良かった。
新見はその楠小十郎も交えて六人で飲みに行く事とした。

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