鬼の生き様
「なんだよ喜六兄ィ、突然大きな声を出しやがって」
歳三は不貞腐れたような表情で喜六を見た。
「兄ちゃんはな、お前の今後を考えているのに、お前という奴は。
立派な商人には喧嘩は必要ないだろう」
「俺は武士になるんだ。
商人にはならん、戦の強さは修羅場の数よ」
やれやれと呆れてモノも言えない喜六を横目に、歳三は木刀を握り宙を切った。
自己流というにも関わらず、撃剣は雷の如く凄まじい勢いで宙を切り、そして突いた。
風を切る音はまるで耳のそば音がしているかの如く、鮮明に聞こえた。
「武士、武士って言うても、この天下太平の世に必要なのは商人としての知恵よ。
お前が求めている夢物語は、戦国時代に置いてけぼりになっちまったお話しさ。
いいかい歳三、お前は明日より大伝馬町の、亀店に奉公に行ってもらう」
喜六はそう言い、歳三にとっての二度目の奉公話を切り出した。