鬼の生き様
一同解散という事になり、ぞろぞろと出て行く中、歳三と勇だけが部屋に残った。
「トシ……。お前がやったんだろう」
勇はそう言い、歳三を睨みつけた。
ただただ何も言わずに、歳三は無言を貫いた。
「……」
「…腹を切れ」
眉根を寄せて真剣な面立ちをしてそう言うと、歳三は深く頷いた。
「承知」
歳三はおもむろに着物の合わせを解き、脇差を抜いた。
迷いはなかった。
「俺が本当に無二の親友であるお前に、腹を切らせるとは思っていないだろ」
勇は立ち上がり大刀を抜き、八相に構え、左後ろに立つ。
「いや、思ってるさ」
真っ直ぐな勇だ。
同士討ち、ましてや闇討ちを嫌う事なんて理解している。
「アンタにゃこのまま真っ直ぐな人でいてほしいよ。
世話になったな。勝っちゃん」
歳三は勇に向かって微笑んだ。
さよなら、と言い歳三は脇差を構えた。
「近藤勇が大名になる姿、先に逝って見守ってるぜ」
勇はハッとした表情を浮かべた。
やめろ!と歳三の脇差を取り上げ、勇は収拾のつかない自己嫌悪に駆られ、自分のふがいなさが、凪の日の舟のように侘しくなってくる。
「もういい……。行けトシ」
勇は息苦しい憂鬱に耐え切れずに、胸が締め付けられた。
歳三は自分の為に、鬼となって芹沢を粛正したのである。
会津藩主、松平容保の命を背いてしまいそうになっていた勇を守る為に。
(何を俺はたった一人で良い子になろうとしていたんだ)
無二の親友に、自分が味わう事のないような辛い想いをさせてしまった事を心の中で深く詫びた。