鬼の生き様
酒が苦手な歳三だが、今夜は酔いたいのだ。
とにかく早く酔っ払って、このモヤモヤとした心情を消し去りたい。
「酒っていうのはよ、薬にもなれば毒にもなるんだ。
俺が呑む酒は薬になる酒だ。
きっとお前が求めているのは、毒になる酒だろう。
そんな荒治療は俺ァしたくないんだ。
心が落ち込んでいる時こそ、酒を求めちまうだろうが、トシにゃ酒に頼るような弱い男になってもらいたくない」
彦五郎は手酌をしてグイッと呑んだ。
歳三は酒を求めるのを辞め、再び空を見上げた。
「何事も中途半端な手前が情けない」
歳三は唇を噛み締めた。
噛み締めた唇からは呻きが漏れる。
「漸く素直になりやがったか。
たまには強がらずに弱みでも見せろ」
彦五郎は優しそうに微笑むと、歳三に徳利を向けた。
歳三は素直に受け取り、一口舐めるとまろやかで丸みのある柔らかい酒に変わっていたような気がした。
「明日、お前に紹介したい人がいる。
今夜はゆっくり休んで、明日に備えろ」
歳三はコクリと頷くと、酒を飲み干した。
「彦義兄、ありがとう。
おかげで気分がスッキリしたよ」
「ここはお前の第二の実家だ。
喜六さんはなかなか手厳しい人だとは思うが、トシの事を思って言っていることを忘れてはいけないよ。
どうしても実家に帰りたくねえって時は、いつでもここへ来てもいいんだからな」
彦五郎は歳三の背中を優しく叩いた。
良い義兄をもった。歳三は心の底から感謝をした。
「そうだ歳三に紹介したい人がいてな、今夜はゆっくり休め」
彦五郎はそう言うと、歳三は頷き夜も更けてきたので深酒はせずに眠りにつく事と決めた。