鬼の生き様
翌日のことである。
惣次郎もまた歳三と同じ想いであった。
(もっと剣の腕を磨いて子供ではなく立派な剣士になって皆を認めさせてやる)
惣次郎は誰よりも早く、早朝から木剣を振るっていた。
試衛館の門人が集まる刻限が近付いてきたが、この日は不思議と誰も道場に足を踏み入れる者がいない。
(おかしいな)
一汗かいて惣次郎は道場を見渡すが、ガランとした道場は人が出入りする気配すら感じられない。
休みではないはずだ。
これじゃ稽古にならない、惣次郎は再び木刀を振り始めてしばらくした頃に、
「惣次郎、稽古に熱心だな」
と八王子千人同心の井上松五郎の弟である井上源三郎が現れた。
井上源三郎は弘化四年(1847年)頃に天然理心流三代目宗家、近藤周助に入門をした。
勝太の兄弟子である。
「源さん、実はまだ誰も道場に来ないんです」
そんな訳あるまい、源三郎はそう言い改めて道場を見渡すが、たしかに誰もいない。
源三郎は、普段から口数が少なく何も言わずに、待っていても仕方がないと防具の支度をしながら、惣次郎の太刀筋を見ていた。
素振りはもう幾ばくしたのかは分からない、そろそろ誰かと立ち合いたかった。
「源さん、このままじゃ稽古になりません。
試合ってくれませんか?」
惣次郎はそう言うと、源三郎もまた人の良い笑みを見せて防具をつけた。
「惣次郎と立ち合うのも、いつぶりだろうなァ」
源三郎は平晴眼を構えて惣次郎を見据えた。
さすがは井上源三郎、天然理心流の平晴眼はしっかりと構えられており、隙が全くなかった。
流石は勝太の兄弟子だ、と思いながらも惣次郎は源三郎の隙を見ながら攻めていった。
打ち込んで打ち込んで打ち込みまくる。
惣次郎の撃剣を、源三郎は竹刀で防ぐことしか出来ない。
「隙あり!」
惣次郎の声がそう言うと同時に道場には低い音が轟いた。
どうやら勝負はついたようだ。
惣次郎は源三郎をも倒してしまう腕前であるのだ。