鬼の生き様
「やっぱり惣次郎は強いなァ。
私やトシさんでさえも、惣次郎の前にかかれば子供扱いだ」
源三郎はそう言うと、惣次郎はありがとうございますと一礼をした。
それにしても門人が来ない、惣次郎は短気で門人の怠慢を腹立たしく感じていた。
さらに早くから素振りをしていた為か汗が胴着をグッシャリと濡らし気持ち悪い。
「行水(ぎょうすい)してきます」
「寒いんだから湯船につかりなさい。
風邪をひくぞ」
源三郎はそう言うが惣次郎はそれを拒んだ。風呂が嫌いなのである。
その風呂嫌いにも理由があり、垢とともに修行の成果が落ちてしまいそうな気がするからである。
昔、勝太に読み聞かせてもらった書物に出てきた宮本武蔵も風呂が嫌いだったらしく、それに感化されたのだ。
外に出てみると、源三郎のいう通りたしかに花冷えで寒かった。
(お風呂にしようかな)
そう考えも浮かんだが、せっかく源三郎と試合をして打ち勝ったのだ。
やはり腕が落ちると思うと風呂は諦めて井戸に向かった。
釣瓶を引き上げている最中に道場から少し離れた場所に人の気配を感じた。
無性に気になり行ってみると、門人達が何人か集まり密談を開いている。
惣次郎は声をかけようとしたが、足を止めた。
「惣次郎は強いけど手加減を知らねえ」
「子供にいいように打たれると腹が立つ」
毒の針を含んだ言葉が、門人達の間で飛び交っていた。
惣次郎が早くに稽古をしている事に気付いた門人達は試合をさせられるのを恐れ、道場に入らずにそこで陰口を言っていたのだろう。
惣次郎は風呂を沸かす為の薪を手に持つと、体が火を発したように、激しく動いて飛びかかった。
門人達はわっ!と声をあげ、竹刀袋で防いだ。