鬼の生き様
「これはいくら騎馬武者(きばむしゃ)を並べたところで、どうにもならないだろうな。
たった四隻の船で、国中を狼狽(ろうばい)させる夷狄の力ってえのは思いの外凄えのかもな」
歳三の言葉に勝太は不快な表情を浮かべた。
「戦わずして何を言うんだトシ。
よし、行くぞ!」
勝太は脇差を腰から抜き、歳三に手渡した。
「日本にも骨のある奴が居るってえ事を見せ付けてやんべえ!」
「行くぞ。ってどこにですか?」
惣次郎は健気な表情で勝太を認めた。
一体、これから何を始めるんだという気持ちは歳三にもあった。
「あそこに小舟がある。
あの船で黒船に乗り込んで、異人の首をとるんだ。
例え最後の一人になろうと、俺らが幕府を守るんだ」
指を指した先には押送舟があった。
決して大きくはない小舟で、黒船に乗り込もうと言うのだ。
勝ち目というものは、全くないだろうが、勝太の馬鹿馬鹿しく、そして真っ直ぐな言葉は、歳三の心に突き刺さった。
(この人について行こう、島崎勝太こそが俺の求めている武士だ。
俺一人では、何をすれば良いのか分からなかったが、この人は行動に移そうとする強い志がある)
歳三は頷き、脇差を受け取った。
押送舟は襤褸舟であったが、二人は互いに目を合わせ乗り込んだ。
惣次郎の身は案じ、説得をしておいて行くこととなった。
いざ征けと言わんばかりに、惣次郎は二人に声をかけた。
しばらくすると、二人の乗る舟は浸水をしてしまい、いよいよ諦めるのであった。