鬼の生き様
師範代の篠原源一は待っていたと言わんばかりの勢いで、歳三を出迎えた。
「よいところに来てくれた薬屋。
生憎、稽古どころではないのだが、薬屋の手も是が非でも借りたい。
礼として、薬を全て買ってやるから手伝ってくれ」
篠原は声をひそめて歳三に声をかけ、薬の数を確認した。
「ザッと五十はご用意しておりやす」
石田散薬は一包二十銭と高価な薬であったが、師範代は致し方ないと全て買い取る約束を交わした。
「ありがとうございます。
それで何かあったのですか?」
「……道場破りだ」
篠原は悔しそうに唇を噛み締めていた。
相手はなかなか手強いらしく、手を焼いているという。
まず、相手を見てみようと道場に入ってみると試合をしていた者の姿に歳三は、間抜けな声をあげた。
「子供!?」
歳三は道場破りを見て驚いた。
顔はまだ幼いが背が高い年端もまだ十代前半であろう少年が門人と向き合っていたのだ。
目は鋭く、炯々とした眼光で門人を射抜き、少年はじりじりと間合いを詰めていた。
無表情な表情は、とても子供だとは思えないような不気味さを醸し出していた。
少年の正眼の構えは、拳が体から二つ分ほど開けられ、切っ先がかなり高く感じる。
歳三はジィッと食い入るように試合を見入っていた。
門人が踏み込んだ、それを見て少年も踏み込んだ。
相打ちだろうか、そう思った刹那、門人の剣は逸れ、少年の竹刀は門人の面を梨割にしていた。
(このガキ、強い!)
「もう居ないのか」
少年は静かな声でそう聞いた。
歳三は周りを見てみると、汗を流し傷だらけの門人達が三十人ほど居た。
この少年が、一人で倒したという。