鬼の生き様


 もはや門人はもう師範代の篠原源一ただ一人。
今倒された者は、塾頭であり、歳三は塾頭の強さも知っている。
その塾頭が、あっさりと負けてしまったのだ。

「致し方あるまい。
こうなれば、私が出るしかないか」

篠原が立ち上がり竹刀を持った。

 しばらく長い睨み合いが続いた。

少年としばらく互角に渡り合っていたが、少年は篠原の刀を払うとあまりの力に篠原の竹刀が弾け飛んだ。

もはやこれまで。喉元に少年の竹刀を向けられ微動だにすることが出来なかった。

「後生だ!看板だけは見逃してくれ!」

篠原はそう言い、頭を床に擦り付けて土下座をした。

「看板?はて、何のことだ」

「道場破りでは…」

「いつ俺が、道場破りだと言った。
ただの腕試しとして来ただけですぞ」

篠原はもちろん門人はキョトンとした表情を浮かべた。
道場の看板を守る為に皆戦ったのである。


 篠原はわなわなと震え始めた。
自分の勘違いが、まさか門人全員をかけた試合に導いてしまったことに憤りを感じたが、それは良からぬ方向へと向かっていった。

憤りを感じていたのは篠原だけではなかったのである。


「ええい!騙しよって!」


塾頭の男はそう言い、木刀を持った。


「篠原先生ッ!この男をこのまま返せば一門の恥だ!」

「その通りです!
生きて返すわけにはいかん!」

その言葉を聞いて賛同する門人達。
少年は狼狽えた。
さすがに三十人もの相手と試合ったのである。

身体は濡れ雑巾のようにクタクタとなっている。

三十人の門弟達がザッと立ち上がると、各々木剣を手に取った。

「ぐぬぬ、貴様ら。いくら門人とはいっても武士道に反するぞ!」

篠原はそう一喝したが、もう後には退けなくなっていた。


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