鬼の生き様
玄武館につくとさっそく面をつけ、二人は構え間合を詰めあった。
山南の剣術は少し小野派一刀流に似たような節がある。
あの日見た山口と似たような正眼であった。
切っ先が山口ほどではないが、山南も多少上がっていたのだ。
「えぇい!」
山南の甲高い声が聞こえたと思えば、歳三は竹刀で受け止めた。
綺麗な剣術である。
山南の柄を歳三は掴み体当たりをすると、後方に退いた。
そのすきに歳三は一の太刀、二の太刀と打ち込んでいくが、山南は竹刀で受け止め、籠手を打ち込んできたが、歳三は間一髪交わした。
山南敬助、やはりなかなかの使い手である。
久しぶりに強い者と試合をしていて歳三の胸は高鳴った。
しばらく試合は続いたが、なかなかお互い決まらなかった。
二人の気合いが重なり合った時に、お互いに面を打ち込んだ。
お互い手応えを感じたが、相打ち。
引き分けであった。
「いやぁ、お強い」
「山南さんこそ」
「あなたの流派は?」
「…自己流です。
荒々しかったでしょう」
山南の腕には赤くミミズ腫れのような竹刀の痕が出来ていた。
歳三も山南の激しい撃剣で、傷が出来ていた。
「これを使ってくれ」
歳三は石田散薬を山南に渡した。
蕎麦の礼だと言うと、山南はまた優しそうな笑顔を浮かべた。
「もし土方くんが学んだ流派があるなら、それを習い活かしたほうが良い。
本当に我流というのなら別ですが。
きっと師匠筋にあたる方は、さぞかし良い人なのでしょう」
山南はそう言うと、石田散薬を懐にしまった。
「あなたの剣には迷いが無かった。
真っ直ぐな素晴らしい剣をしています。
この剣を闇雲に他流試合で失ってしまうのは、実に惜しい。
今日は良い経験が出来ました。
ありがとう、土方くん」
山南の言葉で歳三は決心をした。
試衛館に戻って、また一から天然理心流を学ぼうと。