鬼の生き様
安政六年(1859年)三月九日。
人を斬り二カ月が経った。
平穏な日々を取り戻そう、そんな事を思っていたが、今や歳三の手は穢れている。
試衛館に戻ろうと思っても、なかなかその一歩が踏み出せない。
市谷柳町のあたりを歩いていると、試衛館の前を通りかかった。
勝太の懐かしい気組の声が聞こえ、歳三はふと立ち止まった。
「元気そうだなぁ、勝っちゃん」
まだ肌寒い三月の気温に身震いしながら、一人の男が道場から出てきた。
「おっ、薬屋か。ちょうど良いところに。
ここの道場は撃剣が激しくてかなわねえ。
打ち身に効く薬はあるかい?」
身の丈およそ五尺二寸(約166cm)程の小柄な男が声をかけてきた。
見たことの無い顔だ。新しい門人だろう。
「ありがとうございます。
この薬は熱燗と一緒に服用してください」
歳三は石田散薬を渡すと、そのまま立ち去ろうとした。
「おーい薬屋!
まだ金を払っていないぞ」
「永倉さーん!打ち身の薬ありましたよ!」
その声に歳三はふと足を止めた。