鬼の生き様
歳三は抑えきれぬ男への興味を示し、勇の部屋へと向かった。
「勝っちゃん、入るぞ」
そう言い襖を開けて歳三はびっくりをした。
勇はその拍子抜けした歳三の顔を見て、勇は腹の底から笑っている。
酒を飲むと勇は笑い上戸となるのだが、歳三が驚くのも無理はなかった。
勇と酒を飲んでいたのは、間違いなく山南敬助であったのである。
「…山南さん?」
「ご無沙汰しております」
山南は人良さげな笑みを浮かべて頭を下げた。
あの山南が惣次郎を打ち負かしたのだというのだ。
「またまた石田村のお宅を伺いましてね、あなたが今、天然理心流の試衛館道場に世話になってると聞き、居ても立っても居られずに来てしまいました」
山南はそう言うと、歳三はまたか、と溜息を吐いた。
「やはり実に素晴らしい師匠筋の方で修行をなされていたんですね」
その言葉で勇は照れ臭そうに笑った。
是非、試衛館で学びたいと山南は言った。
小千葉道場で学んでいる山南にとって、試衛館は田舎道場、ましてや江戸の者からは芋道場と揶揄されている道場だ。
「しかし山南さん、ここはあんたみたいな侍が来るような場所ではない」
歳三はそう嗜めると、山南はまたにこりと笑うのだ。
「試衛館の皆さん、あの若い門人さんの沖田くん。
そして近藤さん、彼等の気概は例え北辰一刀流、小野派一刀流…いや、ほかの剣術道場と比べても比にならないぐらいに熱い」
「いやぁ、山南さんは上手いなぁ」
勇は満更ではなさそうに照れ笑いをした。
「私は皆さんの人柄に惚れたのです。
その様な貴重な道場で学んでいきたいと思うのは不可思議な事でしょうか」
山南の言葉に歳三も勇も気分を悪くするものは無かった。