鬼の生き様
歳三に大事な話があるらしいから、石田村に一度戻れと彦五郎から伝えられたのはそれから暫く経った九月二日であった。
今まで実家に呼び出されることは無かった歳三は何事かと思い、石田村へと急いだ。
「よく来たなァ、歳三」
喜六は以前会った時よりも、ますます痩せており、皮膚は蒼白いまま血の気を宿していなかった。
重い病なのであろうか、歳三は喜六の死期が近いから石田村に呼ばれたに違いない。そう思った。
「喜六兄、お身体の具合は?」
「今日は頗る調子がいいよ」
途中咳き込みながら話す喜六を見て、歳三は心を痛めた。
こうなる前にもっと帰るべきであった。
「ナカ義姉、兄貴の病状は?」
「お医者様からはなんとも、原因が分からないと仰っていたわ」
日本の医学では喜六の病気の正体を掴む事は出来なかったらしい。
労咳にしては咳が違う。
「さぁ、トシ。これに着替えなさい。
大事なお客様がおいでになられる」
よく考えてみると、為次郎やナカは晴れ着を着ていた。
歳三は今日見合いをするという事を知らされていないが、一体何のために着替える必要があるのだろうか、全く真意が分からなかったが、言われた通りに着替えた。
暫くすると、「月廼屋お琴様御一行、お着きになりました」と女中は言った。
「月廼屋のお琴さんといえば、為兄ィが贔屓にしている三味線屋の娘さんじゃねえか」
為次郎は四十八歳である。
まさか、この年で所帯を持つわけじゃあるまい、そうなると歳三が呼ばれた理由が分かった。
「彦義兄、ハメやがったな」
「彦五郎さんにも理由は言っていないのだよ」
そう言いながら笑う為次郎。
「喜六の調子が優れていないのは、見ても分かるだろう。
良縁だとは思うんだ、ここでお前の晴れ姿とやらを喜六に見せてやりてえと思ってな。
全ては俺の描いた絵さ」
こうなってしまえば、月廼屋の者達を帰すわけにもいかない。