四季
18


Past of 春

「これからお父さんとお母さんは出張だから、何かあったらおばあちゃんのところへ行きなさい」
「大丈夫だよ。もう中学生なんだから」
「中学生なんてまだまだ子供よ」
「わかったから、はい、行ってらっしゃい」
「じゃ、行ってくるわね」
バタン。
ドアが閉まる。
「……」
私が耐えられたのは最初の一週間だけだった。これでも頑張ったと思う。家の事、全部自分でやるのがこれほど大変とは思わなかった。
その後、私はおばあちゃん家に逃げ出した。おばあちゃん家はわりと近くにあるので助かった。ここでの生活は高校二年生まで続いた。
ある日、私は両親の出張の事で泣いた。まわりの家族が羨ましかったのだ。おばあちゃんはそっと私を抱いた。
「季節は移り変わる。暖かい春の日もあれば、寒い冬の日もある。きっと春の望んでいる日は来るよ」
「そう……だよね……。ありがとう、おばあちゃん」
そして、決心した。強くなるって。だから私は、高校二年生の春休みに家に戻った。


End





コンコン。
「春、起きてるかー?」
「待ってー、今行くー」
ガチャ。
「おはよう」
「おはよー」
「っていうか、もう昼近くだがな」
「えっ! うそ!」
「良く眠ってたな。あ、そうだ、これ」
午前中に来た郵便物を春に渡す。
「何、これ?」
「さあな。開けてみれば?」
春は大きめの郵便物を丁寧に開けた。
「わあー。くらげ四姉妹だあー。欲しかったんだ、これ」
くらげ四姉妹のぬいぐるみをもふもふする春。
怪訝そうに見つめる俺に春は言う。
「知らない? これ。一昔前に流行ったんだけど」
「あー、そういえば、流行ったな。そういうの」
「思い出した? 可愛いよねー。ところで、送り主は……。お父さん、お母さん……」
「良かったな」
「うん。絶対大事にするよ!」
春は本当に大事そうにそのぬいぐるみを抱き締めた。





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