四季
19


「久しぶりの我が家って感じがする」
俺は春と別れて我が家に帰って来た。辺りはすっかり暗くなっている。
ガラガラ。
「ただいまー」
「あっ! 大樹じゃん! どうだった、昨日の夜は。お楽しみでしたか?」
「お楽しみって何だよ」
「またまたー。若い男女が二人とくれば、もちろんあれでしょ」
「バ、バカ言うな!」
「あれ、なんか勘違いしてない? あたしはしりとりの話をしているんだよ?」
「お、お前……。いい加減にしろ」
俺が勘違いしたのを楽しむ夏美。ケラケラと笑っている。
「明日、夏美も行くの?」
「ああ。保健所でしょ? 行くよ、あたし。良男の名付け親だし」
「そうですか」
「そういえば、保健所に行って何するの?」
「さあ、いまいち俺にもわからない。親父に訊いてみるか……」
居間でビールを飲みながら、テレビを見る親父に声をかけた。
「明日、保健所に行って何するの?」
「良男の登録とかだな。動物を飼うのはいろいろ大変なんだ。まあ、明日は父さんが全部やるから心配するな」
「俺達って必要?」
「いい勉強になるんじゃないか。この機会に保健所を見学させてもらえ。それに、良男は夏美ちゃんがいないとだめだろ」
「……。わかった」
「明日は、朝早くから出発するから、早く眠りなさい」
俺と夏美は早めに寝た。親父は大人の余裕からか少し遅れてから寝たようだ。





保健所。
「わー、ここが保健所かあ」
けっこう大きな建物で高さと言うよりは横に大きい。要するに、広い建物ということだ。
「父さんは良男と手続きとか注射とか済ませてくるから、しばらく見学でもしておきなさい」
親父の姿が消えたあと、俺達は保護室を見学させてもらった。
ここには、拾われた犬や猫などがたくさんいる。檻の中にいる犬と目が合った。どこか怯えた目をしている。他には、威嚇する猫もいた。様々な動物の命がひとつの狭い空間に押し詰められている。
「なんか……なんか、あたしみたい……」
ポツリと夏美はそう言った。
「夏美……」
「おばさんがいて本当に良かったよ。それに大樹も。今度のゴールデンウィークにおばさん家に帰ろうかな……」
「そうしろ。寂しがってるかも知れない」
「ううん。違う。お礼を言いたくて……。本当の子供じゃないのにここまで育ててくれてありがとうって。ま、まだまだ世話がかかりそうですけど」
「だな」
「何よー。ちょっとは否定してよー」
保護室を出ると、親父がいた。
「けっこうすぐに終わった。じゃ、帰るか」
「おー。帰ろうー」
夏美がはりきって車に乗り込んだ。俺と親父があとに続く。





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