四季
朝、いや正確には昼ぐらいか。明け方ぐらいに帰って来て寝たので、だいたい六時間ほど睡眠をとったことになる。
日課通り準備をして学校に向かう。いつもと変わらない景色を歩いていく。すれ違う人達に変な目で見られている気がする。
「今頃か」
とか
「今更か」
とか呟いている気がする。それは、錯覚に過ぎないのだが、気になってしまう。
しばらく歩くと猫と出くわした。もちろん今回も、そそくさと逃げていくのだろうと思った。しかし、その猫は俺の足元でじゃれつき始めた。
「珍しいこともあるものだな。夏美に見せたら、喜ぶだろうな。そうだ、名前が必要だな。よし、みーちゃんにしよう。よろしく、みーちゃん」
「にぁーお」
自然と表情がほころんでいるのがわかる。
「いかん。これから学校だった。じゃあな、みーちゃん」
「にぁーお」
みーちゃんをその場において、俺はそそくさと逃げるように歩く。
ようやく、校門までたどり着いた。この光岡(ひかりおか)高校には大きな桜の木がある。今はそれが見頃となっている。しかし、今の時間帯は学生は皆無……いや、誰かいる。かといって、話かけるほど良くできた人間じゃない。ここは大人しく通り過ぎることにする。
「あ、あの!」
「……」
「あのってば!」
「ん? 俺か?」
少女は自分と俺を指さし、「仲間」と言う。
「いや、仲間じゃねーだろ。それにそのリボン、一年生だろ?」
「で、でも、同じ遅刻……」
「あー、そういうこと。確かに仲間かもな」
「やった! 千秋(ちあき)ちゃん、嬉しい!」
「お前、千秋って言うの?」
「千に秋で千秋です。先輩は?」
くうー。先輩かあ。久しぶりだな、この感覚。
「俺は大樹。大きいの大に樹木の樹。それで大樹」
「……」
「どうした?」
学生が移動している。移動教室だろう。
「千秋、怖くて……。千秋、今日が初めての登校なの……。千秋、ずっと病気だったから……」
だから、ずっとここにいたのだろうか。誰からも声をかけられず、誰からも目を向けられない。勇気をだして声をかけたのが俺だとしたら……。
「ったく。行くぞ!」
俺の声がきっかけで歩き出す千秋。
何かを始めるのに遅いということはあるのだろうか? ただ少なくとも、この一瞬は意味のあるものに変わったはず。
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