四季



Past of 千秋

「あーあ、まだ病院生活かあー。微熱だし、学校行っても良いでしょ? お母さん」
「ダメです! 身体第一。学校はそれからね」
「えー、つまんなーい」
「お医者さんも、もう少しの辛抱だって言ってるじゃない」
いつものやり取り。もう何十回と繰り返した。それでも、会話が無いよりかはマシでなんとなくしてしまう。暇潰しの一種だ。
そこへお父さんがやって来た。
「退院が決まったそうだ」
「え? うそ! 本当?」
「ああ、本当だ。四月前に退院できるそうだ」
「やった! 久しぶりに家に帰れる! これからずっと一緒だね。お父さん、お母さん」
「「……」」
顔が急に真剣になっていく。お父さんはうつむき、お母さんは目に涙を浮かべていた。
「どうしたの?」
訊きたくなかった。でも、訊かずにはいられなかった。
「言おうかどうか迷ったんだが……、千秋は成長した。この現実を受け止めてくれると信じている。お前の命はあと……長くみて約一年だ」
笑った。なぜか笑った。無常とはどういうものか悟った気がした。
「べ、別に良いよ。千秋、ちゃんと幸せだったもん」
強がった。本当は八つ当たりしたいし泣きたい。でも、今そうしたらお父さんとお母さんが悲しんでしまう。だから、笑った。





面会が終わり、両親は帰った。
消灯時間になり、明かりが消えた。しかし、小さな微灯がついている。それを自分と重ね合わせる。
「なんだか、千秋みたい……」
すると、一気に溜め込んで来たものが涙となって溢れ出す。
「なんでよ……なんで……」
袖を濡らした涙はまだ止まらず、枕までも濡らした。
その日私は、泣き疲れて眠った。

End





昇降口。
「あのな、どこまでついてくる気だ? お前はあっち」
「どこまでもついていきます!」
軽く頭を小突いてやった。
「あのな、俺は三年生でお前は一年生だろ。だったらもうわかるな?」
「……」
「不安なのはわかるが――」
「と、友達になって下さい!」
千秋の頭を軽く撫でて言う。
「練習か? それとも俺のことか? だったらその言葉は必要ないな。俺達もう、友達だろ?」
ニッと笑って見せる。
「ゆっくりでいいから、友達を作れよ。その方が人生楽しくなるだろ?」
「そうですね。千秋、人生、楽しくなってきました!」
「ん? 同級生にもう友達いるの?」
千秋は俺を指さした。
「ああ、そういうこと。ありがとな」
千秋は笑った。そして、一年生の昇降口に向かう。その背中は堂々としていた。





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