四季
53


千秋 side

花火大会開始の十分前、私達は病院の屋上にやって来た。
「どうよ、この景色。最高だろ?」
「まあ、悪くないわね」
「看護士さんには内緒だぜ?」
「わかってるよ」
それから私達は沈黙した。
夏の夕暮れ。陽射し消え、月明かりが街を照らしだす。夜風がずいぶん気持ちいい。
病院の高い屋上からの景色は、まるで背が高くなったような感覚を私に与える。
しばらくしたあと、蒼太が言う。
「ところで好きな人はいないの?」
「何よーいきなり。蒼太はどうなの?」
「俺は……」
「……」
「俺は……。ち――」
花火の爆音で良く聞こえなかった。
蒼太はうつむく。花火のあかりに照らされた蒼太の顔は、どこか赤くなっているように見えた。
その後、三十分ぐらい私達は空を見上げた。
「キレイだったな」
「うん」
「……」
「さっき、なんて言ったの?」
「あーあれ? なんでもない」
「えー、気になるよー」
「千秋には関係ないの!」
「もう……」
「で、千秋は好きな人いるの?」
「千秋? 千秋はねーいるよ、好きな人」
「そ、それって! もしかして俺!」
「やだなー違うよ」
「そ、そうだよな……」
蒼太は苦笑いを浮かべながら言う。
「……」
「どんな人? 名前は?」
「えっとねー。優しい人で名前は大丘大樹っていうの。学校の子」
「そ、そっかあ。告白はしたの?」
「してないよ。まあでも、いつかはしたいな、告白」
「そうなんだ……」
「蒼太、元気ないよ。どうしたの?」
「なんでもない。さ、戻ろうぜ。看護士さんにバレちまう」
「わかった」





翌朝、熱が上がって看護士さんに怒られた。
蒼太はそれをケラケラと笑う。


End





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