四季
千秋 side
昇降口が改修のため、一年生の昇降口は少し離れたところにある。大樹と離れるのは嫌だが、仕方がない。
「千秋も一緒が良かったなあー。そうすれば、不安も少しは楽になるのに……」
そう呟いた。しかし、それは風にのって消えていく。
昇降口でたたずむ私に一年生男子がぶつかった。ぶつかった拍子に地面に倒れこむ。そして、膝を擦りむいてしまった。
「わりぃ」
男子生徒は移動教室に遅れたのか急いでその場を去ってしまった。
誰もいなくなって、ふと目に涙が浮かんだ。
そこに、手が差し伸べられた。
「大……じゃなくて、先輩」
「大樹でいい。思い出したよ、お前のこと……。また、膝を擦りむいたのかよ」
「また……。思い出さなくて良かったのに。私は、新しく生まれ変わったんだから、そういう過去は関係ないの」
「と、言われてもなあ。入試の時、昇降口でぶつかって膝を擦りむいた女の子の事は忘れられない。千秋って名前、どこかで見覚えがあるなと思ってたんだ。それでお前の苗字が稲田だったら……」
「ちょっと、稲田って苗字は少し嫌いなんだから、止めてよね」
「同い年なんだから、大樹でいいよ」
「で、でも上級生と下級生だし、千秋は先輩でもいいよ」
「気にすんな。俺は大樹の方が呼ばれなれている」
「じゃ、じゃあ大樹……。そろそろ、手を離してくれない?」
「このまま行くんじゃないのか、教室」
「や、やだよ、そんなの。恥ずかしいでしょ」
「そうだな」
笑う大樹。でも、少し嬉しかった。男の子と手をつなぐ事は初めてかもしれない。私より大きな手。こんな私を優しく包んでくれる。
私達はそれぞれ教室に向かった。不安に押し潰されそうなのを大樹が守ってくれる気がした。だから、真っ直ぐ前を見て歩く事ができた。
End
※
あいつ、無事に教室に行けただろうか。
俺は無事に教室に着いたのだが、ここからが問題。授業中に教室に入るのは気がめいる。
仕方なく三年一組の教室のドアを開けると……ドスッ。
「大丘、タイミング悪いわー」
「そうだな、あの冬真(とうま)とぶつかっちまうなんて。かわいそう」
こそこそと声が聞こえてくる。
視線を落とすと冬真がいた。
「どけ!」
冬真は左腕で俺を押す。流れにのって退く。そして、冬真は走りだそうとする。俺は冬真の左腕を掴み、言った。
「授業中だろ? どこ行くんだ?」
「関係無いだろ……」
俺の右手を振りほどき、走っていった。
俺は大人しく教室に入り、席についた。教室はしばらくざわざわしていたが教師が静かにと言うと教室は静まりかえった。
授業は眠たくて困る。机に突っ伏し、ゆっくりまぶたを閉じる。春の日差しが心地いい。俺も冬真の事、とやかく言えないな。
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