四季
まどろみの中、声が聞こえてくる。
「大丘君、大丘君」
ゆっくり目を開く。そして、周囲を確認する。そこには、春がいた。
「ああ、春か……。おはよう……」
「何寝ぼけてるの? 今は放課後だよ」
「……」
「そうだ、はい、これ。ノートとっておいた」
「えっ、悪いな、頼んでもいないのに」
「学級委員長ですから! でも、誰にでもするわけじゃないから……」
どこか恥ずかしそうにそう言う春。
「ありがとな。ジュースでも買ってやるよ」
「あ、ありがと……」
帰り支度をし終え、立ち上がる。俺は、言おうか迷ったが結局言った。
「一緒に、帰るか?」
「う、うん」
二人並んで歩く。右手と左手が触れるか触れないかの距離。少し緊張して俺は歩いた。
ほどなくして昇降口。あっという間だった。
そして、そこには冬真がいた。俺は春を制し、二人で隠れた。
「面白い、ついていこうじゃないか」
「ダメだよ。そんなの大地(だいち)さんに悪いわ」
「少しだけ、少しだけだよ。昼間の事もあるし」
「もう。どうなっても知らないよ」
俺達は冬真をしばらくつけていった。冬真をつけていけば、面白い事が待っている……はずだった。しかしそこは、墓場だった。
「なんだって墓場に……」
「そう言えば、大地さんのお姉さんが若くして亡くなったって聞いたことがある」
「それでか」
冬真は墓に水をかけ、手を合わせる。ふいにこちらを振り向く冬真。とっさに隠れて猫の真似をする。
「にゃ、にゃーお」
「そうか……猫か……」
良し、騙せたな。春にグーサインを出す。それに応えて春もグーサインを出す。
「……って、騙されるか! 出てこい、大樹!」
騙せてなかったあ! 仕方なく出る。
「お前、なんのつもりだよ。こそこそつけやがって」
「そ、そりゃ……」
「まあいい。誰にも言うなよ。そして、早く帰れ。デートなんだろ」
「ち、ちがっ……」
「いいから早く帰れ。オレが迷惑だ」
「……。じゃ、じゃあな。行こうぜ、春」
俺は春の手をひき、歩きだした。
※
冬真 side
大樹達がいなくなったあと、再び墓に手を合わせる。
「姉さん。姉さんがいなかったらオレ……。あれさえなかったら、姉さんは生きていたんだろうな。こんな事ならオレが死んだ方がましだよ」
オレの頬に一滴の涙が伝った。そして一気に涙が溢れだした。
「姉さんが死んでから、父さんと母さんは離婚した。オレは止める事ができなかった。姉さん? オレはどうしたらいい? もう、苦しくて苦しくて仕方がないんだよ」
ゆっくりまぶたを閉じ、ゆっくり祈りを捧げる。オレの問いかけに姉さんは応えてはくれない。
End
※