四季
「大樹君、大樹君。手、離してくれない?」
「ん? ああ、悪い」
強引に引っ張ってここまで来た。ここというのは学校だ。学校に戻って来たのだ。
「ふりだしに戻ったのかな……」
ふと言葉がこぼれ落ちた。
「……。人生でふりだしに戻る事はないと思う……たぶん。過去は背負って生きていくものだと思う。それでこそ過去なんだよ」
「……。そうか。その軌跡が明るい未来につながっているといいな。俺も春も冬真も、みんなも」
「あったり前でしょ! じゃなきゃ人生やってられないよ。ところで、ジュース買ってくれるんでしょ? 私、イチゴミルクで」
「はいはい、わかりましたよ、学級委員長様」
身近な自動販売機に硬貨を入れる。そして、イチゴミルクを選ぶ。
「当たればもう一本、当たればもう一本」
自動販売機から無機質な声が聞こえてくる。この手のものには運がない。
「どーせあたんねーよ。行こうぜ、春」
「えっ、でも当たってるよ、ほら」
「えっ、マジ?」
自動販売機を見ると当たりのデジタル文字が流れている。俺はその当たりの文字に少し戸惑ったが、その後、イチゴミルクを選んだ。
春が飲んでいるイチゴミルクと俺が飲んでいるイチゴミルク。味は違うのだろうか。少なくとも俺は、美味しいと思った。しかし、春はどうだろうか。静かに春に視線を向ける。目と目が合い、春は言う。
「美味しいね」
嬉しかった。たった百円の飲み物だけど、時間共有や味の共有はなぜか心地良かった。
「ところで、委員会はいいのか? 来月の地域散歩の計画で学級委員長は忙しいんじゃないの?」
「……。サボっちゃった……」
「おい、それじゃいけないだろ。今からでも間に合うんじゃないか?」
「ううん、いいの。大樹君を更正させるのも仕事いや好きだから……。好きで大樹と一緒にいるの。悪い?」
「でも、委員会は行かないと……。俺なら、明日から真面目に学校に行くからさ。な?」
「……。わかったわ。あなたを学級委員長補佐に任命する」
「おいっ! それって俺も学校行事とかの仕事をするわけ?」
「当たり前でしょ。さあ、明日からよ、よろしく頼むわね大樹補佐」
「へいへい、わかりましたよ」
俺が学級委員長補佐に決まってから、春は気分がいいのかスキップまでする。その帰り道はなぜか俺の気分までも良かった。
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