それもまた一つの選択
トキさん…。

トキさん、トキさん、トキさん!

私の頭の中はトキさんがグルグル。

電車に乗る時、後ろにトキさんがいない事がわかっているのに。

振り返って、がっくり。

…それにトキさんには。

付き合っている彼女もいるかもしれないというのに。

今日、出会ったばかりなのに。

ドキドキして止まらない。



「今日、学校の帰り、何してたの?」

そんなドキドキは一瞬にして崩れる。

お母様は帰るなりそんな言葉を私に投げつける。

「…プラネタリウムに」

「誰と?」

「同じ学校の人」

そう言って顔を上げると。

お母様は虫けらを見るような目を私に向けていた。

私は再び俯いて、無表情を貫く。

でもその中は。

トキさんでいっぱい。

あの人なら…私を解放してくれるかしら?

…なんて。

そんな事、きっとトキさんには迷惑だわ。

こんな家…早く出たい。

でも出られない。

後継ぎがいないから、婿養子は絶対だってお父様は言っていた。

この家に来たい男性はたくさんいるし、たくさん候補もいるって。

私には恋愛する自由もない。

そう、かごの中の小鳥のように。

そのかごを…。

開けてくれる人がトキさんだったらどんなに幸せだろう。

今日出会った人にそんな期待をしてしまうなんて、私は愚かすぎる。



自分の部屋に入って制服を脱ぎながら今日はやけに目の前がぼやけるなあ、なんて思いながら頬を伝う大雨を拭うのに精一杯だった。
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