それもまた一つの選択
「それは何に対しての『ごめんなさい』?」
トキさんのその返し方。
その目、ちょっと怒っている感じがする。
「心配して仕事途中に家に帰って来てくれた事」
と言ってもトキさんはじっと私を見続けていた。
本心は違う、という顔をしている。
トキさんには勝てない。
「…今井という家に巻き込んでしまってごめんなさい」
一度は引っ込んだ涙がまた溢れだした。
「本当にごめんなさい」
トキさんの自由を奪ってしまった事。
権力争いのようなことが多い家なんて…
「何で遥が謝るの?」
トキさんはニコリともせず、ただ淡々と言い続けた。
「たまたま好きになった人が今井商事の会長の孫、社長の娘。
ただそれだけだろ?」
いや、でも!!
「遥のお父さんが俺を後継者に選んだから?」
そう、そこ。
私は頷く。
「…そうだな。
俺が普通の大学生で高橋みたいにこれから就職活動して、とかいう学生ならそうだろうな」
声のトーンがいつもより低い。
トキさんは続けた。
「でもね、遥。
俺は…俺の今の立場はもうそんなところじゃないんだ。
会社の大なり小なりあるけれど、立場は遥のお父さんと同じだよ、俺。
それが今後、大きな会社でトップに立つかどうかだけの話」
お父様と同じ立場…。
涙が止まった。
トキさんを見るとまだ私の事を淡々と見つめている。
いつもの…優しい笑顔を見せるトキさんじゃない。
あ、そうか。
これがトキさんの、フォーマルな顔つきとでもいうのか。
お父様が家で私に見せる時の顔と外での顔の違い。
「遥、今後こういう話は一切しないでくれる?
そんな風に言われると俺がバカにされている気がする」
淡々、が冷酷、という目に変わった。
背筋にひんやりとしたものを感じる。
声も出せず、頷くしかない。
トキさんは椅子から立ち上がり、私の対角線に立った。
怖くて…顔を上げられない。
「俺はね、これでもそれなりの人数を抱えてる社長なの。
その社員たちが今後、良い生活、良い労働をしてくれるなら俺の立場なんて安いものだよ」
トキさんの指先が私の頬を上から下に撫でていく。
顎まで到達すると人差し指で簡単に上にあげて私の目線をトキさんの目に合わせられた。
「もちろん、それは遥の生活も掛かっている。
だから俺は本気だよ。
こういうチャンスを与えてくれたお父さんにも感謝してる。
絶対にやり遂げてみせるから…だから俺には謝るな。
俺の事を可哀想だとかも思うな」
そのままトキさんの顔が私に近づいてきた。
寸前まで来て、いつものトキさんの顔に戻る。
「俺が遥に求めるのは…今後あの会社のトップに立った時の俺の妻、としての品格と俺を少しだけ甘やかせてくれる事」
そう言うとトキさんは私の唇を優しく塞いだ。
その柔らかさに…背中の冷たさは徐々になくなっていった。
トキさんのその返し方。
その目、ちょっと怒っている感じがする。
「心配して仕事途中に家に帰って来てくれた事」
と言ってもトキさんはじっと私を見続けていた。
本心は違う、という顔をしている。
トキさんには勝てない。
「…今井という家に巻き込んでしまってごめんなさい」
一度は引っ込んだ涙がまた溢れだした。
「本当にごめんなさい」
トキさんの自由を奪ってしまった事。
権力争いのようなことが多い家なんて…
「何で遥が謝るの?」
トキさんはニコリともせず、ただ淡々と言い続けた。
「たまたま好きになった人が今井商事の会長の孫、社長の娘。
ただそれだけだろ?」
いや、でも!!
「遥のお父さんが俺を後継者に選んだから?」
そう、そこ。
私は頷く。
「…そうだな。
俺が普通の大学生で高橋みたいにこれから就職活動して、とかいう学生ならそうだろうな」
声のトーンがいつもより低い。
トキさんは続けた。
「でもね、遥。
俺は…俺の今の立場はもうそんなところじゃないんだ。
会社の大なり小なりあるけれど、立場は遥のお父さんと同じだよ、俺。
それが今後、大きな会社でトップに立つかどうかだけの話」
お父様と同じ立場…。
涙が止まった。
トキさんを見るとまだ私の事を淡々と見つめている。
いつもの…優しい笑顔を見せるトキさんじゃない。
あ、そうか。
これがトキさんの、フォーマルな顔つきとでもいうのか。
お父様が家で私に見せる時の顔と外での顔の違い。
「遥、今後こういう話は一切しないでくれる?
そんな風に言われると俺がバカにされている気がする」
淡々、が冷酷、という目に変わった。
背筋にひんやりとしたものを感じる。
声も出せず、頷くしかない。
トキさんは椅子から立ち上がり、私の対角線に立った。
怖くて…顔を上げられない。
「俺はね、これでもそれなりの人数を抱えてる社長なの。
その社員たちが今後、良い生活、良い労働をしてくれるなら俺の立場なんて安いものだよ」
トキさんの指先が私の頬を上から下に撫でていく。
顎まで到達すると人差し指で簡単に上にあげて私の目線をトキさんの目に合わせられた。
「もちろん、それは遥の生活も掛かっている。
だから俺は本気だよ。
こういうチャンスを与えてくれたお父さんにも感謝してる。
絶対にやり遂げてみせるから…だから俺には謝るな。
俺の事を可哀想だとかも思うな」
そのままトキさんの顔が私に近づいてきた。
寸前まで来て、いつものトキさんの顔に戻る。
「俺が遥に求めるのは…今後あの会社のトップに立った時の俺の妻、としての品格と俺を少しだけ甘やかせてくれる事」
そう言うとトキさんは私の唇を優しく塞いだ。
その柔らかさに…背中の冷たさは徐々になくなっていった。