それもまた一つの選択
毎月、5日くらいの欠席で何とか学校には行けていた。
夏から秋はほとんど保健室で過ごし、最後の文化祭も無事に終わり(竹中先生と植田先生がコラボした出店の手伝いばかりをしていた)、季節は冬を迎えた。

この冬は寒い日が多く、体調は良くない。
冬休み寸前に10日ほど、連続で学校へ行けなくなり、家でひたすら寝ていた。
トキさんも高橋さんもほとんど家に居なくて一人ぼっち。

今までならどちらかがいてくれたのに秋ごろから急に二人揃っていなくなる事が多かった。

…寂しい。
本当に寂しい。

ガランとしたリビングに一人。
テレビを付けても何も面白くなかった。

仕方がない、新聞でも読むか。

最近、新聞を端から端まで見るようになった。
どこかで必ずと言っていいほど今井商事の事が書かれてあったり、トキさんの会社がクローズアップされるようになり特集が組まれている事が多い。
最近、会社が出したゲームがまたヒットしたらしい。

15歳の強烈な業界デビューを果たしたトキさんが20歳になってまた仕掛けた。
今度は新進気鋭の社員達と共に作り上げたRPG。
パソコン向けに作られたのに、他のハードでも移殖されて更に会社が大きくなったらしい。
今井商事の情報処理セキュリティ関係を持ちながら一方ではそういうゲームという世界も大切にする。
この1年で会社は大きく2つの分野に分かれて、会社としても成長を続けている。

トキさんは今井商事のバックアップがあって、予算が多く使えるようになった、と喜んでいたけれど。

とうとう藤野情報システムも秋にマンション1階から移転した。
…このマンションの隣にビルを建てた。

だから、トキさんが今井商事に行かない日はほぼ隣のビルで仕事をしている。
とはいえ、昼間は大学、夜に仕事。
明け方まで帰って来ない事も多い。

新聞を全て読んでみたが今日は珍しく、何もなかった。



そんな時、家のドアが開く音がした。
一瞬、ビクッとする。



「ただいま」

トキさんの声が聞こえてホッとした。

「おかえり!!」

昼前に家に帰ってくるなんて珍しい。

振り返ると、トキさんと共にこのリビングに入ってきたのは…。

「体調、大丈夫?」

柏原君だった。
久々に見た気がした。

「うん、大丈夫」

椅子から立ち上がるとゆったりとしたワンピースの裾が揺れた。
妊娠6か月に入り前よりは少しお腹も大きくなってきたけれど、制服を着るとまだまだわからない。
今もそれほどわからないはずだったのに。

柏原君はしばらく私の顔とお腹と交互に見つめてから、こう言った。

「…お腹に赤ちゃん、いるんだね」

その言葉に私もトキさんも凍りついた。
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