それもまた一つの選択
柏原君は私達二人を見て、苦笑いをして

「偶然、夏くらいに新聞を見たんです。
藤野さんが…今井商事の社長から後継者に指名されたって記事を。
ひょっとして、今井さんが妊娠したのかなって思いました」

柏原君、鋭い。

「今井さん、免疫機能が低下して学校にもあまり来られないって話を担任から聞いてますます。
真由ちゃん、今井さんの事を心配しているけど鈍感だから近くにいても全然気が付かないし。
周りもあまり今井さんに関わりたくないから気にも止めていない。
流石に休みがちにしてもずっと来ないのはおかしいって思って、藤野さんに連絡して遊びに来たんだ」

トキさんはそれを聞いて少し笑って

「流石は拓海君。
遥の事、頼んだだけはあるね」

トキさんは柏原君にソファーに座るように言って、キッチンへ向かった。

「…お腹、目立つ?」

不安になり、柏原君に聞いてみると笑顔で首を横に振り

「今日はたまたまお腹のラインが目立ってただけ。
だから確信したんだけど、制服着てたらまずわからないな」

少しだけホッとすると

「大丈夫、僕は他の人には言わないよ。今井さんの味方だから」

…泣きたくなる。

「ただ…ますます周りとの温度差が開いた気がする。
少しずつ、今井さんが周りと馴染んできた節があるだけに残念」

そう思ってくれるのは有難い。
でも、私の本心は少し違う。
早く、卒業してこの狭い世界から逃げたいだけ。

「どうぞ」

トキさんがお茶とお菓子を用意してくれた。

「すみません、無理して来たのに。ありがとうございます!」

トキさんは微笑んで

「いえいえ、こちらこそ来てくれてありがとう。
…彼女と一緒に来ると思ってたのに」

平野さんと?

「…彼女が来たら色々と大変です。
卒業まで黙っていない気がして。
信じる、信じないとはまた別問題ですが。
真由ちゃん、周りの人にうっかり話してしまう可能性があります」

生野さんの事だよね。

「そんな事になれば…。
いつもご支援を頂いている藤野さんに申し訳ないです」

トキさんは柏原君の個人スポンサーだ。

「まあ、その時はその時だよ。何をしてもバレてしまうから。
でもお心遣い、ありがとうね」

トキさんがそう言うと柏原君は笑って頷く。

何となく。

トキさんと柏原君は雰囲気が似てるなあ。
顔は全く違うのに、一緒の空気感があるというかなんというか。

心地良い、この二人は私にとって。
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