それもまた一つの選択
それが。
今生の別れになるとは…思いもしなかった。

寒いクリスマスの朝。
カーテンを開けると雪がチラチラと舞い降りていた。
昨晩は高橋と遥と3人、クリスマスパーティもどきの、いつもより少し豪華な夕食を取り遅くまで話をしていた。
まだ、遥も高橋も起きてこない。

さっき、掛かってきた電話は拓海君の弟から。
泣いて、何言ってるのか最初わからなかったけど。
昨晩事故に遭ってついさっき、息を引き取ったという事だった。
受話器を持つ手が異常に震えていた。

遥に、なんて言えば良いだろう。
さっきからそればっかり頭の中でグルグル回って、混乱する。

何気に付けたテレビも何言ってるのか全然わからない。
ただ、静まり返った部屋が辛すぎるから。
何か音が欲しいだけ。



10時過ぎにようやく遥が起きてきた。
ぼんやりとしている俺を見て、不思議そうに覗き込む。

うん、わかってる。
言わないと。

「…遥」

急に今まで我慢していたものがこみ上げてきた。

「えっ?え???」

遥は目をまん丸くしておろおろとしている。

「拓海君、今朝、亡くなったんだ」

それしか言えなかった。
必死に目から溢れてくるものを抑えようとするんだけど、全然抑えられなくて。
こんなに泣いたのは人生で初めてかもしれない。

遥は何がなんやらわからない顔をしていた。
やがて、高橋も部屋に入って来て号泣している俺を見て何事か?と焦っていた。

後から聞いたら些細な喧嘩から別れ話にでもなったのかと思ったんだって。
失礼な奴だ。

それよりも。

約束したのにな。
子供が生まれたら拓海君が先生になって教えてくれるって。

俺、楽しみにしていたのに。
本当に凄く楽しみにしていたんだ。
いつか、自分の子供がバイクに乗るなら。
あんな凄いライダーと一緒に走る事が出来たらどれだけ幸せな事なんだろうって。
もし、自分の子供が拓海君と争えるくらいのライダーになったら…きっと俺は持てる力を全て使って応援する。
まだ見ぬ我が子にそんな期待を抱いて…。

まだまだこれから沢山すべきことがあったのに。
どうしていなくなってしまったんだい?
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