それもまた一つの選択
学校近くに停めていた車で俺達二人が向かったのは、市役所。



卒業式の日に入籍しよう。



二人で決めた約束。
ようやく果たせる日が来たんだ。

遥は制服姿のまま、ここに来たから市役所の人は目を丸くしていたけど。

手続きに少し時間が掛かったけど。

2月25日、午後0時56分。

俺と遥は正式な夫婦となった。



「藤野 遥…」

受け取った住民票を見て遥が呟く。

「私、ずっとこの時を待っていたの」

ギュッと書類を胸の前で抱いた。

「ずっと…今井の名前から離れたかった」

そう言って俺を見つめた遥の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「トキさんはやっぱり私の王子様だわ。
トキさんが私をあの家から解放してくれたの。
…そしてトキさんがあの家の人たちの意識を変えてくれたの。
本当にありがとう」

そう言ってくれるのは嬉しいけど。

「遥、俺にお礼を言うのはまだ早いよ」

多分、俺。

遥に初めて見せる目をしていると思う。
遥の顔が一瞬、引きつった。

「俺がきちんと結果を出した時、そう言われる価値があるんだと思う。
まだまだこれからだよ」

俺は一瞬、目を細めた。

「だから遥、俺を支えて欲しい。
実務的に支えるんじゃなくて…気持ちの面で支えて欲しいんだ。
これといって特別な事をするんじゃなくて…。
一緒に食事をしたり、くだらない事で笑いあったり。
俺が欲しいのはそういう、何気ない事なんだ」


「善処いたします」

遥が目に涙を浮かべながら微笑んだ。



そう、俺が欲しいのは。
遥のそういう笑顔。
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