それもまた一つの選択
「高橋さん、ごめんなさい」

結局、病院までは高橋さんが運転する車で向かった。

「遥ちゃん、遠慮なんて今更水臭い」

後部座席から私は高橋さんの後姿を見つめていたが嬉しそうにしているのがわかる。

「いよいよだな、生まれたら抱っこさせてくれよ?」

「もちろん」

私の隣に座っているトキさんがそう答えて私の手を軽く握る。

病院までの距離が長く感じられた。



立ち合いは、断った。
不安だけど…私が苦しむ姿をトキさんに見られたくない。
そこだけはどうしても引けなかった。
激痛の中、何度も辞めたくなる。
でも、ここは頑張らないと。

早く、会いたいよ。
どんな顔をしてるんだろう?
トキさんに似てる?私に似てる?
あと少しで会えるんだから。

真っ暗だった夜からやがて明るくなった窓越しの世界を見て、呼吸を整えた。

さ、出ておいで…。

意識が飛びそうになりながら、我が子の声を聞いた。
高い声。
元気な泣き声。

ようやく、出てきてくれたんだ。
…ありがとう。
私とトキさんを固く結び付けてくれた、天使が。
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