それもまた一つの選択
「トキさん、すごーい!!」

遥は手を叩いて喜んでいた。
小さい子供みたい。

「でも、弟さんや妹さんは…?」

その瞬間、物凄いピンポンの嵐が家中に響いた。

「…はあ」

俺は立ち上がり、モニターを見つめる。

「どうぞ」

オートロックを解除して数分後。
今度は玄関のチャイムの嵐。

遥、口を開けて呆然としている。

…嫌がるかな、遥。

ちょっと不安だな。

「お兄ちゃん~!!彼女は?」

1歳年下の妹、優貴は嬉しそうに家に上がってきた。

「…お邪魔します」

5歳年下の弟、浩貴は遠慮しがちに上がる。
きっと、優貴に無理やり連れてこられたのだろう。

遥に紹介するとすっかり3人は打ち解けていた。

…俺、結構育ちの違いとか気にしてたんだけどな。
遥はお金持ちでお嬢様で。
何一つ不自由してない。

ウチはお金に苦労して、二人の学費も俺が出している。
もちろん、家の生活費も。
母さんはいらないって言うけれど…親父がいたころの借金がのしかかっていたし。
でも、それもゲームで稼いだ金でどうにか返したけど。
働き詰めの母さんをどうにか楽にさせてやりたいのに母さんは受け取ってくれない。

いつも言うのは自分の為に使え、って。

あの狭いアパートの一室で俺が仕事の為にパソコンをカチャカチャさせると部屋中響く。
だから、家を出たのも理由の一つだ。
皆が寝ている時でもそんな事をしなくて済むように。
キーボードを叩く音は結構、うるさいし。

ここに皆も一緒に引っ越そうと言ったのに。
部屋の数も今までの倍以上あるのに。
身の丈に合わない、と言って断られたし。
優貴も浩貴もたまに来るから面白いと思うのでまた近々来る、と言っていた。

一応、俺は未成年だからこの部屋の名義は母さんなのにな。

まあ、でもいずれは。
ここを母さんたちに渡すつもりだから、今はいいや。
全てをここで解決させたら、後、上手くやる自信はない。

こんな崩壊しかかった、家庭なのに。
たまたま俺の運が良かったから何とか持ち直せたのに。
でも、先の事を考えたら不安で仕方ないのに。

こんな不安定な俺を…

遥は

「トキさんが羨ましい」

なんて言う。

「羨ましい?」

思わず聞き返した。

弟、妹は茶化すだけ茶化して帰り、高橋は勉強すると言って隣の家に引きこもって今は二人。

初めて二人きりになれたのに。

重い会話が続く。

「トキさんは味方になってくれる人がいっぱいいるから」

と言われて初めて遥の闇に行き着いた。

「あんな楽しい弟さんと妹さんがいて。
頼りになるお友達もいて。
私には兄弟姉妹もいない。
…頼れる友達もいない」

遥の目から涙がこぼれた。
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