それもまた一つの選択
そんなに泣くなよ。
両手で顔を覆って、わんわん泣いてたら隣から高橋が飛んでくるよ。

…こんなに泣いても隣には聞こえてないのか、さすがだなこの家。
そういうところが賃貸じゃないな。

いや、そんな事よりも!!
目の前の遥。

「俺じゃダメなのか?」

泣いている遥の隣に座った。
今までこんなにくっついたことはない。

「弟や妹が欲しいならいつでも貸してやる。
友達がいなくても俺がいるじゃないか。
…あ、でも少しは友達、作っておいた方が良いぞ。
高橋みたいなの。
それでも友達作れないって言うなら、きっと高橋が友達になってくれるというかきっと高橋はお前の事、俺と同じように友達と思っていてくれているよ。
じゃないとこんな茶番に付き合ってくれない」

しゃっくりをしながら遥は顔を上げた。
あー…鼻水ズルズル。
100年の恋も冷めるぞ。

手元にあるティッシュを大量に出して遥の顔を思いっきり拭いてやった。

「トキさん、痛い…」

それでも拭いてやった。
ようやく拭き終わって顔を見ると目、真っ赤だし。

「俺はいつでも遥の味方だよ」

その瞬間、遥が俺の胸に抱きついてきた。

「…でも、いつかトキさんと離される時が来ると思います」

俺もそれは薄々思っている。
遥のお父さんやお祖父さんは俺なんていとも簡単に潰しに来るだろう。
ただ、方向性が全然違うから今はまだ何もないが。

「じゃあ、その時が来たら…」

俺は遥の顎をぐいっと上に向けた。

「俺は遥を連れて駆け落ちでもするよ」

そっと遥の唇に自分の唇を重ねた。



「藤野―!!ここ分からないから教え…」

いきなり、隣の家に通じるドアが開いた。

遥は俺の胸に慌てて顔を隠し、俺は半分ムッとしながら高橋を見る。

「…おりゃー!!藤野!!お前いきなりルール破ったな!!」

高橋、激怒り。

あ、そうだった。

高橋と共同生活をするうえで決めたルール。
お互い彼女とイチャつく時は。
自分の寝室で。
リビングではイチャつかない。

「…つい、ごめん」

「ごめんじゃないだろー!!」

その後、遥と共に高橋の説教に1時間。

途中、彼女いないくせに怒り狂う高橋の表情に何度か笑い転げそうになってさらに高橋の怒りを買うという。



お互い、物凄いファーストキスになってしまったな、遥。
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