それもまた一つの選択
「遥、静かに」

柏原君が座っていたテーブルの手前側。
私のよく知っている人がそこにはいた。

「どうして…?」

トキさんは私達を手招きして座るようにジェスチャーする。

私はトキさんの隣に座った。
向かいの席に平野さんと柏原君。
ああ、なんだかこの感じ。
すごくドキドキするんだけど。

「俺、拓海君から前に付き合い始めたって聞いてて。
今日、遥と彼女が出かけるのも遥から聞く前に拓海君から聞いていたんだ。
で、ちょっと驚かせようと思って」

「トキさんの用事ってこれ?」

トキさんはクスクスと笑いながら頷いた。

「そうだよ」

思わず、トキさんの腕を軽く叩いた。

「トキさんの意地悪」

最初から言ってくれたら良かったのに。
ぷいっと横を向いたら頬を突かれた。

「ブッ!!」

そんな…勢いよく突いたら。
口から変な音がするに決まっているじゃない!!

「トーキーさーんっ!!」

私は思いっきりトキさんの頬を両手で挟んだ。

「よふ、いたひ」

トキさんの口がタコ状態。

「あははははは!!」

大笑いしたのは柏原君。
周りの視線が一斉にこちらに突き刺さったので慌てて平野さんが柏原君の口を塞いだ。

「あはは、面白い。今井さん、そんなキャラだったんだ」

柏原君、目に涙、浮かべるくらい、私の事…面白いの???
ある程度笑いつくして柏原君はすっと顔を上げて私を見つめた。

「いつもさ、どこか周りと一線引いて。
いや、何かあればすぐに親が出てくるから引いて、みんなと距離を取るしかないんだけど。
…藤野さんのおかげだよね、今井さんの本当の姿がようやく見えるようになってきたのは」

柏原君の、真っ直ぐな視線を逸らす事が出来なかった。
その目、トキさんと重なる。

「学校でも、時々そういうの、見せてよ。
僕たち、友達だし」

柏原君は平野さんを見つめて頷く。
平野さんもまた、私を見つめて頷いた。

友達…。

「チョ…!!大丈夫、今井さん!!」

平野さんは私を見つめて大慌てでハンカチを取り出した。

「拓海君!笑いすぎよっ!!」

いや、平野さん、そうじゃなくて。
ただ、私は…。

「良かったな、遥」

私の心の中を読んでいるのかな。
トキさんの優しい掌が…私の頭を優しく撫でた。

「トキさん、反則」

私は両手で顔を覆った。
本当に反則。



友達って響き、こんなに良かったんだ。
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