それもまた一つの選択
「ごちそうさまでした!!」

カフェを出て私と平野さんと柏原君3人でトキさんに向かってお礼を言って頭を下げた。

「いえいえ、どういたしまして」

トキさん、余裕の表情。
さすが、年上。
いや、大学生なのに、超お金持ち。

…って本人目の前で言ったら本気で怒られるので心の中で思う。
トキさんはあまり人から仕事で稼いでいる事を言われるのを嫌う。

『自分は超ラッキーなんだ』

っていつもそう言っている。
トキさんの才能が、この世の中の流れと合っているだけだって。
だからいつか来るだろう、下降するときに備えて一生遊んで暮らせるだけのお金を今、稼いでいるんだって。

「今日はみんなの家まで送るよ」

と言ってトキさんは車のロックを解除した。
腕時計をチラッと見て

「遥が一番先だな」

うん、もう16時。

トキさんは門限を絶対に守る。
最近は車で家の前まで送ってくれる…まあ、それは半分はわざと。
そろそろ、私の両親に認めて貰いたいって。
今のところ、それに関しては何も言われていない。
けど。
来年はどうなっているのか、全然見えない。

…きっとこのままじゃ、別れさせられる。
そう思うと胸が苦しい。

トキさんもそれに感づいている。
だからわざわざ、家の前まで車で送ってくれる。



「ありがとう、トキさん」

家の前に着くと、後部座席の平野さんと柏原君は思わず、声を上げている。

「大きい、お家」

なんて平野さんが言うので

「…私はこんな家、早く出たいな」

苦笑いしてそう返し、手を振った。

「今日はありがとう、また行こうね」

平野さんと行ったお店、本当に楽しかった。

「もちろん!」

嬉しそうに平野さんが頷いてくれたので私もにっこりと笑って…。
家に入った。

家に入った瞬間、ヒンヤリとした空気が流れる。
きっと今の私。
さっきとは全く違う、無表情だと思う。
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