それもまた一つの選択
翌日。
大学13号館下にあるお洒落な食堂に行った。
ちらほら、高校生もいる。

この13号館は経済・経営学部の建物、と言ってよい。
教室もあるし、教授の部屋がここにはある。
トキさんや生野さんの彼氏さんはまだ1年・2年だからゼミもないし教授の部屋に入り浸る事もないと思うけど。

「あ…」

ランチを注文して待っていると生野さんが声を上げた。
その視線の先には数人の男子大学生。

「うわ、いた…」

その目は輝いていた。
生野さんも恋、しているんだなって。

「えー、どの人?」

「しーっ!バレたらヤバい」

なんで?

とりあえず私達は窓際のテーブルに座る。
優しい光が窓から降り注ぐ場所だった。

「あのグループさあ、結構目立つというか何というか」

ひそひそと生野さんは私達に呟く。

「親もお金持ちが多くてさ。色々と問題になってる」

…そんな人の彼女なんだ、生野さん。

「でもね。悟は良い人なの、私にとっては」

きっとその人は、あの中で一番大声で笑っている人。
お調子者、という感じが否めない。

「ちょっとここ、いいですか?」

隣に人の気配を感じた。
トレーを両手に持っていたが。
その手、見覚えがある。

「あ、藤野さん!!」

何故か平野さんが嬉しそうに手を振る。

「どうも」

そう言って当然のように私の隣に座ったトキさん。

「いつも遥がお世話になっています」

その言葉は、生野さんにわざと向けられた。
あの生野さんがそれに反応できないくらい、焦っていた。
実はトキさん。
大学生になって急にかっこよくなったというかなんというか。
高校の時は短めの髪で見た目もパッとしなかった。
大学に入って少し髪の毛を伸ばし、着ている物も少し変えただけで見た目が超ハイスペック男子になった。
…と教えてくれたのは平野さん。
生野さんが言ってた、あの『オタク』からは到底、考えられないと思う。

私は高校の時のトキさんも。
今のトキさんも好きな事には変わりない。

「藤野さん、よくわかりましたね、ここにいるの」

平野さんは嬉しそうにトキさんに話しかけると

「その高校の制服を見かけたら思わず見てしまうよ。
今日は知ってる顔が二人もいたから声を掛けたんだ」

実は。
昨日、トキさんに電話をした。
どうしても生野さんが怖くて。
あんな質問をされたらどう対応していいのかわからない。

『ふーん。そんな質問する子がいるんだ。欲求不満かもね。
遥もさ、正直に言えば良かったのに。俺は別にいいけどね、言われて減るもんじゃない』

ってその時はトキさん、言ってたけど。
言えるわけ、ないでしょ!!
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