それもまた一つの選択
こんな誘い方、した事がない。

普段は気分転換に一人で出掛けるプラネタリウム。
子供向けの小さな場所だけれど。
大好きな場所だ。

「楽しかったです!」

外に出てからお礼を言われる。
財布からお金を取り出そうとするその手を掴んだ。

「いいよ、これくらい」

そんなに顔を赤くしなくても。
楽しんでもらえたならそれでいい。

「ありがとうございます。
でも、いつかはこのお礼、させてくださいね」

少しだけ、胸が痛くなる。

「そういう機会があれば」

手を離して腕時計を見る。

もう16時半。

「もうそろそろ、帰らないといけないんじゃない?」

彼女は慌てて時計を見て目を丸くした。

「あわわ!!」

駅に向かって走り出そうとして、振り返る。

「あのっ!!」

俺は右手を軽く上げてバイバイ、と手を振る。

「お名前教えてください!!」

俺の方が目を丸くするよ。

「藤野 都貴」

「トキさん!!」

いや、そこを下の名前で呼ぶ?

「また月曜日、図書室で!!」

彼女は走って駅に向かっていった。

…月曜の予約が勝手に入った。


そういえば。

彼女の名前、知らない。
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