それもまた一つの選択
何とも後味の悪いまま、私たちは食堂を後にした。

「先、帰るね」

平野さんが生野さんに声を掛けに行くと

「ねえねえ、彼女は彼氏いるの―?」

生野さんの彼氏たちのグループの一人が大きな声で言う。
周りの視線がそちらに向いた。

平野さんは生野さんに軽く手を上げて完全無視のまま、私のところに戻ってきた。

「へえ、彼女。中々やるね」

嬉しそうに呟いたのはトキさん。

「拓海君の彼女は強いね」

そう言って私に手を振った。

「藤野さん、今日はありがとうございました!」

戻ってきた平野さんは笑顔でトキさんに頭を下げる。

「いえいえ、こちらこそ。またいつでもおいで」

トキさんは立ち去ろうとする私達に手を振った。
あ…この光景、どこかで見たことがある。
私も手を振りながら一体どこだったっけ?
平野さんとまた来ようね、と話しながら歩いて、何か引っかかる。

あ…。

私はもう一度振り返る。
トキさんはまだ手を振っていた。

最初に出会った時の…あの光景。

「トキさん!」

私が名前を叫んだら、トキさんは首を傾げていた。

「…ごめん、平野さん、ちょっと待ってて!!」

「もちろん、いってらっしゃい」

平野さんは優しく微笑んで私の肩を押してくれた。
大慌てで私はトキさんの元へ駆け寄る。

「遥、どうしたの?」

トキさんは不思議そうな顔をして私を見つめる。

「今、約束していないと何だか次、会えない気がして」

「…次の日曜日?」

トキさんが私をそっと抱き寄せる。
…ちょっとトキさん!周りの人が見てる!!

「もちろん、会うよ。車で迎えに行こうか?」

「はーい!!そこまでー!!」

割って入ってきたのは高橋さん。

「藤野ー!!お前いい加減にしないとな、本当によーちゃんが可哀想。
よーちゃん、制服だぜ?高校に通報されたらどうするんだ?」

「…抱き寄せただけでキスはしてない」

トキさんは軽く舌を出して微笑んだ。

大丈夫、次もまた会えるから。
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