それもまた一つの選択
俺は大きく深呼吸をした。

「会社はこのまま、成長させるつもりです。
今いる大学にそれなりの人材もいるのでスカウトしようと思う人が何人かいます」

そう言うと今井社長は何度か頷いた。

「あと5年もすれば本当に大きな組織になりそうだね。
えっと、今従業員は…」

「20人です。
一応、会社はありますが私はそこにはほとんどいません。
大学もあるし、自分がやらねばならない重要なシステムは自分の家で作っています」

「そうだね、会社って今住んでる場所の1階だね」

本当に調べ尽くしているな、この人。

「都貴君が経営学部に入ったのは将来的に会社を運営していく上での事?」

俺は頷いた。
自分で言うのは何だが、情報システムの知識は恐ろしくあるが経営はさほど。

「そうか、なら俺はますます君が欲しいと思う」

…はい?

「都貴君、君の会社をこの会社のグループに入れないか?」

「はい?」

なにこれ、合併とか統合っていう話?

「今井商事はこれから来るであろう情報システム化にいまいち弱い。
俺はね、その部分に力を入れたいんだ。
でも、会社の中でそういう人材を育てようと思っても基礎がないから無理。
若い社員を登用して育てればいいが、それも時間が掛かる。
早い話がその手の会社を買収出来たら良い」

へえー。
今井商事が俺の会社を買うのか。

「出来たらお断りしたいです」

勝手に口からそう言っていた。

「今の従業員は大きな組織に慣れていません。
全力で逃げて行きます。
せっかく、自分の力を発揮する場所が出来た、と喜んでいる人が大半なのに。
そんな能力が高い人たちの居場所をなくすことが出来ません」

俺の会社で働いてもらっている人たちは。
能力は高いけれど中々人と接するのが難しかったり、色々抱えていて内向的な人が多い。
たまたま、通信等で知り合った人たち。
情報処理に関してのスキルは高いのに、家に引きこもっていたり。
今、少しずつその扉を開いていっている途中だから。

「へえ、そんな事をしているのか、都貴君」

その迫力ある今井社長の目が輝いた。

「グループと言っても、ここのビルのように部署として入る必要はないよ。
今まで通り、仕事をして貰っていい。
もちろん、その部門の責任者は都貴君になるから計画書さえ上げて貰えたら自分の思うようにしてもらっていい。
その予算はこちらから出す。
…今井の名前はブランドとしてはかなり価値があると思う。
その価値が付けば都貴君の会社も格が上がると思うのだが」

「私は会社の格とかそんな事を考えたことがないです。
ただ…俺を慕って働いてくれる人が楽しく生きて行けて、仕事をした分、報酬をきっちりと払いたい。
本当にそれだけなんです、望んでいるのは」

目の前にいる今井社長は本当に楽しそうに俺の話を聞いてくれている。

「じゃあ、遥の事はどう考えている?」

来たな、その質問。
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