それもまた一つの選択
今井本社の外に出た時にはもう日が暮れていた。
思わず身震いをする。
気温がかなり低くなっているのがわかる。

遥、会社のシステムを俺が請け負う事になると知ったらどう思うだろうな。
今井のシステムを受けるとなるともう少し、社員の人数を増やさないと対応出来なくなるな。
まあ、試験的に本社から始める、となっているからそんなに焦る必要もないけど。

久しぶりに繁華街を歩いているとクリスマス一色。
イルミネーションも煌びやかでふと、とある店の前で立ち止まった。

遥に、似合うかな。
真っ先にそれを考えた。

一応、遥のお父さんには許可を貰ったし。
少しずつ、来るべき日の為に準備はしていいよな?

思い切って、その店に入った。



翌日の日曜。

「トキさん、ごめんなさい」

電話の向こうの遥は、今にも泣きそうな声を出した。

「どうしたの?」

宥めるように声を掛ける。

「今日、行けない…」

それ以上、遥は理由を話さないと思うので

「うん、わかった」

とだけ答えた。

「トキさん、明日一緒にお昼ご飯食べてほしいなあ」

「もちろん。大学の図書館前にいるようにするよ」

「ありがとう」

遥、全く元気がない。
でも、それを俺から聞く事は絶対にしてはならない、と思う。
遥がきちんと話してくれるまでは。

ああ、今日、何しようかな。
毎週、日曜日だけは遥に会えるように仕事も全て片付けているんだけどな。
そうだ!こんな時こそ。
会社に行ってみよう。

会社はフレックスタイム制を取っている。
労働時間は全てIDカードと連携したシステムで算出され、もちろん超勤も出る。
仕事の成果によれば手当も出る。
自分のしたことがちゃんと反映されるように頑張っている。

きっと今日も、誰かは出勤しているはず。

「おはようございます」

挨拶しながらマンション1階にある会社に入ると5人くらい出勤していた。

「あ、おはようございます!!」

慌てて立ち上がって挨拶をする者もいるので座るようにジェスチャーした。

「社長、珍しいですね」

そう声を掛けてくる者もいる。
ここにいる人達は皆、俺よりも年上の方。
けれど、きちんと立場に線を引いて接してくれる。

「たまにはいいでしょ?それとも私がいると仕事がはかどりませんか」

失笑が聞こえた。
半分、そうなんだな。

「ということは今日、彼女来てないんですね」

チャラ男みたいな社員が笑う。
名前を言うのが邪魔くさいのでいつもチャラ男と呼んでいる。

俺も笑って

「そういう事です」

「たまにはそういう時もあって良いと思いますよ~!!」

また、笑いが起こった。

「また、皆さんにはお願いしたい仕事が増えそうです」

少しだけ、昨日の成果を伝える。

「今井商事のシステムを今後任されそうです。
どうかその時は力を貸していただきたい」

「うわあ、凄い会社と取引するんですね」

やっぱり、そういう反応だよね。

「全力を尽くしたいと思います」

社員の目が輝いた。
それだけで、会社設立して良かったと思う。
俺の元で働いてくれる人は輝いていて欲しいから。

「あ、社長!!」

チャラ男、なんだよ。

「このエロゲー、中々面白く出来たと思うんですけど」

…チャラ男、おい。

「この世に出していいですか?」

「止めてください、この会社の名前を出さないでください」

と、言いつつもチェックしてみる。
へえ、マニアには受けそう。

「顔、にやけてますよ社長。彼女にしちゃいけませんよ」

一言、多いわ!!

「しませんよ。このキャラデザは誰が?」

「俺です。俺、絵も描けるんです」

そう言ってスケッチブックを見せてくれた。

「うわ~、うわ~!!」

俺、きっと目を輝かせていると思う。

「RPG作りたい!!」

などと言うと

「社長!僕、ストーリー書けるんですけど!!」

他の社員が原稿を持ってきた。

「うわあ、作りたいなー、ゲーム」

俺の頭の中で何やらグルグルと回り始めた。

「本業の合間に作りましょうよ、RPG」

「やろう!!」

凄い騒ぎになって、夕方くらいまで真剣に討論していた。

最初は自分一人で始めた事が。
いつの間にか大きな事になっている。
その同じ思いを抱えた者が集まって…。
凄いなって。

「またいつでも顔出しに来てくださいね!!」

「はい、また来ます。あ、仕事の邪魔してしまったお詫びに何か皆さんで食べてください」

そう言ってほんの少し、お金を置いていった。

俺もまだまだ頑張らないといけない。
いずれは…今井グループの中に入る事になったとしても。
この会社の組織力を高めないと。
しっかりとした絆と地盤を作らなければ。
< 46 / 119 >

この作品をシェア

pagetop